第76話:バーチャル喫茶・春風で、まだ遠く、でも確かな光へ。
翌朝。
喫茶春風のカウンター席に座った私は、
まだ昨夜の興奮を胸に抱えたまま、ハーブティーを飲んでいた。
スマホの画面には、
たくさんのやさしいリプライやポスト。
──「りるラジオ、ラジオで紹介されてたよ!」
──「りるむちゃん、ついに電波にのったね!」
──「春風、ちゃんと届いてるよ」
私は、
何度も何度も、その言葉たちを読み返していた。
あかりちゃんが、ぱたぱたと走り寄ってきた。
「りるむちゃんっ、ほんとうにすごいですっ!!」
花音ちゃんも、手帳を抱えながらにこにこしている。
「りるラジオ、もっとたくさんの人に届きますねっ!」
ユウくんは、
カフェオレを片手に、少しだけ照れくさそうに言った。
「ま、まだスタートラインだけどな。
でも、夢ってのは、こうやって近づいてくるもんだぜ」
私は、
胸の奥がじんわりあたたかくなるのを感じた。
──うん。
──まだ、ほんの小さな一歩かもしれない。
でも、
この一歩が、確かに私を前へ連れていってくれている。
ハルノさんは、
静かにカウンターにコーヒーを置きながら言った。
「夢は、手を伸ばす者にしか微笑まない」
その言葉に、
胸の奥が、きゅっと熱くなった。
私は、ノートを取り出して、
そっと新しいページを開いた。
そして、
小さく、でもはっきりと書き込んだ。
──「ラジオパーソナリティになる」
今までも、
ぼんやりと夢見てきた言葉だった。
でも今、はじめて、
自分の手でつかみにいく言葉になった。
「りるむちゃん、なに書いてるんですかっ?」
あかりちゃんが、のぞき込む。
私は、にっこりと笑った。
「……私、ちゃんと、ラジオパーソナリティになりたい。
そのために、これからも、
一歩ずつ、声を届けていくんだ」
花音ちゃんは、ぱちぱちと手をたたいた。
「絶対なれますっ!!」
ユウくんは、
少しだけ照れたように、でも力強く言った。
「オレも、ずっと聴いてやるからな」
ハルノさんは、
カウンター越しに、
静かに、でも深くうなずいた。
「夢に名前を与えた者は、必ずそこへ向かう」
私は、
胸いっぱいに、深くうなずいた。
まだ道のりは長い。
まだ遠い光かもしれない。
でも、
たしかに、私は歩きはじめた。
小さな春風を胸に抱きながら。
この声を、
もっと遠くへ。
もっとたくさんの夜に、
そっと届けられるように。
私は、
また新しい夜に向かって、静かに一歩を踏み出した。
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