wifiヤクザの仁義なき抗争

ちびまるフォイ

仁義なきwifi

「なんじゃコラァ! おお!?

 うちのシマでなにWifi飛ばしとんじゃ!!」


「テメェんとこのWifi弱すぎるくせに、

 なにがシマじゃボケェコラァア!!」


ある地区ではwifiスポットをめぐり抗争が絶えない。


指定暴力団・通信組と、電脳商会は犬猿の中。

とくにお互いのwifiの境界線沿いは抗争の前線になりがち。


「次うちのシマでwifi飛ばしてみろ。

 てめぇんとこのシマの各家庭の中継ルーター

 ぜんぶぶち壊してやるからな」


「おお、やってみろ腰抜けが。

 お前んとこの貧弱ルーターに変えたいやつなんかいねぇぞ」


メンチで火花が飛び散る一触即発の状況。

地元の警察も手出しができないwifi激戦区。


そんなある日のことだった。

通信組の若い衆がシマのwifiシノギをしているとき。


「お、ここwifi入るやん」


うっかり自分のシマじゃないフリーwifiに接続してしまった。

これに電脳商会はすぐに気づいて大抗争となる。


「なに勝手にwifiつなげとるんじゃコラァ!!」


「紛らわしいwifiの名前にするんじゃねぇ!

 GUEST-001とかいっぱい候補に出るんじゃ!!」


「てめぇ通信組のスパイかコラァ!」

「なんだとオラァ!」

「コラァ!」

「オラァ!」

「コアラァ!!」


究極に語彙力を失ったオス同士の怒鳴り合いから、

wifiエリアを奪い合う組同士の大抗争が勃発。


電脳商会は街に配置されている通信組のフリーwifi中継機を破壊。

通信組のフリーwifiスポットを削っていく。


これに怒った通信組も同じように電脳商会のシマに入り、

街に置かれているwifi中継機を破壊するいたちごっこ。


破壊が破壊を呼ぶ連鎖がはじまった。

ついにはお互いの中継機のほとんどを失ってしまった。

それでも抗争は止まらない。


「通信組の奴らを許しておくな!

 こうなったら本部をぶっ潰してやる!」


「先手を打たれてたまるか。

 電脳商会の本部のwifiぶち壊してやる!」


もはやお互いが倒れるまで殴り合うデスマッチの様相。

しかし、どちらも街の現状に目を向けることはなかった。


一方、街はどうなったか。

世紀の大抗争の末に街からフリーwifiが失われ、

次に台頭したのは半グレ組織「6Gドラゴン」だった。


国外からやってきた6Gドラゴンは基地局を街に配置。

wifiを失った人たちはしょうがなく6G回線につなげる。


「うあ、なんだこの通信料!?」

「wifiっぽい名前なのに、これ6G回線かよ!」

「気づかず動画見ちゃった!! どうしよう!」


抗争で疲弊したwifiヤクザたちを差し置き、

街に滞留していた多くのパケットは6Gドラゴンのものとなる。


通信組と、電脳商会はたまらず会合を開くことになった。

黒塗りのいかつい車が平屋の豪邸の前に列をなす。


「で、話ってなんや。通信組」


「お前さん、今街がどうなってるか知っとるか?」


「知っとるわボケ。ぽっと出の6Gドラゴンいう半グレが幅きかせとるってな」


「奴らにゃ仁義がねぇ。ただパケットを取りたいだけじゃ。

 wifi筋を通さん無礼者にはシメが必要。そう思わんか?」


「当然じゃ。それで呼んだんやろ?」


「ああ」


合図をすると組の若い衆が慌ててLANケーブルを持ってくる。

wifiヤクザのならわしだ。


「それでは! ここで、LAN盃をかわして

 お互いの協力を取り付けたいと思います!」


ふたつのwifiヤクザ。

そのオサはお互いの鼻にLANケーブルを突っ込んで相互に接続。

これは伝統的な停戦協定を意味する。

絵面に文句を言ってはいけない。


「一時停戦ゆうわけやな。それでこれからどうする?

 やつら、すでに街は6G回線で汚染されとる」


「なら、そうさせれば良い」


2つの巨大な組織は手を組んで6Gドラゴンの排斥へと動き出す。

そんなことを知らない6Gドラゴンの半グレたちはパケットの海で遊んでいた。


「ぎゃっはっは! ちょろいもんだなぁ!」


「見ろ。こんなにパケット通信が! 最高だ!」


「頭の古いwifiヤクザなんてのは、現代のデジタル技術におっついてない。

 だから俺たちに太刀打ちできないんだよ」


「だな。おっさんどもはバカばっかりだ!」


「んじゃ今日はこれくらいにするか」


「帰り道気をつけろよ。wifiヤクザの報復があるかもしれねぇ」


「そこはおまわりさんに助けを求めとく。

 どうせアイツら、表立って動けないんだろうし」


半グレたちはご機嫌で仕事を終えた。

家に帰るとゲームをしたり、動画を見たりで自由に時間を過ごしていた。

のちのち送られてくる請求書を見るまではいい気分だった。


「な、なんだこの通信料!?」


半グレたちはみな一様に請求書の金額を見て腰を抜かした。

今までの比じゃないほどの莫大な通信料。


大量のパケットが知らず知らずのうちに使われていた。


「いったいどうなってるんだ。

 家にいるときはいつもwifiつなげてっ……ま、まさか!!」


半グレたちは自分たちの接続状況を確認する。

接続されていたのはwifiではなく、6G回線。


wifiだと安心して容量の重いダウンロードなどをしてしまい、

ものすごい量のパケットを消費してしまっていた。


もちろんこれがwifiヤクザたちの作戦だった。


「今ごろ、6Gの半グレキッズたちはどうしてるだろうかな」


「まさか自宅のwifiが使い物にならねぇなんて、夢に思ってないだろうな」


お互いで手を組んだwifiヤクザたちは、

半グレの自宅にあるwifiや無線ルーターを交換した。

自動で6G回線につながるようになっている。


今まで6G回線へ接続させて荒稼ぎしていたパケットは、

自分たちが自宅でつないでいたパケットで相殺されてしまうハメになる。


気づいている半グレはごくわずかで、

この事実を知らない半グレたちは今もパケットを消費していた。


「おい! wifiにつながってないのに動画見るな!」

「wifiヤクザどもの罠だ!!」


wifiヤクザと違って明確な組織として成立していない半グレ集団。

いくらグループチャットで連絡しても、

命令が徹底することはなくやがて勝手に破滅した。


街から6G回線が撤退すると、再び街は電波が届かないブルーオーシャンとなる。


「よお通信組。これでもう共通の敵はおらんちゅうことやな」


「悪いがこの街は家の電脳商会が仕切らせてもらう」


「何勝手に言うとんねん」


「お前んとこの激遅wifiなんかつなげたら、

 街の人はみんな逆に迷惑だっつっとるんじゃ」


「それはそっちの話やろ?」


「あ゛あ?」

「ん゛ん?」


お互いのwifiヤクザのオサは鼻からLANケーブルを抜いた。

これは伝統的な停戦協定の終了を意味する。



「「 この街のフリーwifiはうちのシマのものだ!!! 」」




そして、再びフリーwifiの仁義なき戦いがはじまるのだったーー。

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