1-05

「このロープとかテープは、御札みたいなものだよ」

 るりちゃんは満面の笑みでそう言う。でも、私には全然そんなふうに見えない。

「御札? よくわかんないけど、御札ってすごい呪文とかが紙に書いてあるんじゃないの?」

「ね、わたしも最初そう思った。ていうかほかの御札のことはわかんないけど、これ自体は動物のマーキングと同じようなものなんだって。とにかく自分の痕跡を残しておくためのものなの。だからペンで適当に色つけただけのテープとかでも効果があるんだ。どうしてこういうものを使うかっていうと、これを作った人は目が見えないから」

 なるほど、目が見えない人が紙に文字を書くのは、かなり難しいことだと思う。

「そうなんだぁ……」

「あゆむさぁ、大事なことを聞き忘れてない?」

 るりちゃんは私に尋ねる。誘い受けである。私はしぶしぶ尋ねる。

「……るりちゃんは、どうしてこれが御札の代わりだって知ってるの?」

「それはねぇ!」るりちゃんはMAX嬉しそうな、行間にルンルンって書かれそうな勢いで答えてくれる。「このロープとかテープとかって、わたしの彼氏が作るやつとまったく同じやつだからです!」

 出た。彼氏。

 私の頭の中で、これまでに得ているるりちゃんの「彼氏」の情報が立ち上がり、集まって固まりだす。

 るりちゃんは彼のことを「シローくん」って呼んでいる。るりちゃんよりもたぶんちょっと年上で、ファミリー向けのきれいなマンションで一人暮らしをしている。ブリーチしたみたいに真っ白な髪で、でも美容院でやったとかじゃなくて、たぶん十代の頃にストレスで色が抜けまくったんだっていう。そして目が全然見えない。だからもちろん車の運転はできない。るりちゃんはこの彼とドライブがしたい。

 そしてるりちゃん曰く、彼は「本物の霊能者」だという。本当かよ、と思わないでもない。でも本当にやばいところはそこじゃない。

 るりちゃんの話を聞く限り、彼はもう「るりちゃんの彼氏」ではない。

 なのに、るりちゃんは止まらない。

「シローくんがここに来て、しかも仕事をしてるんなら、この建物はきっと本物だよ」

 ひとしきり写真を撮り終えたるりちゃんは、ようやく階段を上がり始める。

「前は女子高生の面倒みてたから気づかなかったけど、やっぱりここには本当にオバケがいたんだよ! そんでもって二階が露骨に封鎖されてるってことは、まだ仕事が終わってないんだと思う。だってオバケがいなくなっちゃったなら、こんな風にふさぐ必要なんかないもんね。ただシローくんにしては仕事が甘いんだよなぁ。こういう封印だけじゃなくって、出入り口にちゃんと鍵かけてくタイプだよ、彼。なのにここの玄関は普通に開いた――でもまぁいいや。大事なことは、まだこの建物にはオバケがいるらしいってことだから」

 かつん。かつん。るりちゃんのヒールが、階段の踏板を踏みしめる。時々音が鈍くなるところには、きっと御札みたいな養生テープが貼られているんだろう。るりちゃんは、行く手をふさぐロープの一本にちょっと指をかけて、それから私の方を振り向く。


「こういうのをさぁ、そっと動かしてったらたぶん、隙間作って二階に入れると思うんだよね」

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