第四頁 物語の火蓋は切られた その4
赤目が今使ったのは
ただ、種族による違いはあるのかもしれないが、少なくとも人間は自分単独で
「くらえ魔力弾!」
赤目の右手から、僕と同じように魔力弾が放たれる。
そして、体内の魔力に属性を付与するということはつまり、体内の魔力を外へと飛ばす魔力弾にもその属性は付与されるということになるわけだ。
……魔力弾の形状、大きさや速さは恐らく僕と大差ない。これなら避けられるか?
反応が遅れながらも僕は、じりりと右足を動かし始めた。
いやしかし、やはり僕の魔力弾とは明らかに違う点が一つある。それは、放たれた魔力弾が無属性ではなく風属性であるということだ。
初め、乱気流を弾にしたような様だったその魔力弾は、空気抵抗を受けて次第に遅くなっていくのではなく、むしろその逆で、周囲の空気・風をどんどん
ダメだ、避けきれない!
そう感じて防御の姿勢に入ろうとした時には時既に遅く、風の魔力弾は僕に直撃した。その衝撃で僕の身体は後方へと吹き飛ぶ。
「ごあっ!!」
すぐさま体勢を立て直すも、負傷した箇所はズキズキと痛み、幾つか擦り傷もできていた。完全に立ち上がるまではいかず、片膝を着く感じで赤目の方を向き直る。
そいつは、真顔で僕を見つめていた。
「その様子だと、まともに食らったな。どうだ? 立てるか? なんならもう一発撃っとこうか?」
赤目は右手を
どうする? 一か八かでやってみるか? ……いや、それしかない。
僕はダメ元で、周囲に炎の精霊が居ることを確認してからその構えに入った。右手は地面に着けたままで、赤目がやってみせたようにそれを唱えてみる。
「
「お、遂に本気を出すのか? ふぅん、待っててやるよ」
「
静かに唱えると、僕の右手と地面の狭間から、濃い赤色の魔法陣が形成される。付与魔法は、この魔法陣を通じて精霊達に魔力を少量分け与える代わりに、精霊から属性を付与してもらうものだ。
だから、僕の苦手なこの魔法陣形成がうまくいかないことには、付与魔法も失敗に終わってしまう。
徐々に体の中の魔力が炎に染められていくのが、体の熱の上がり具合から分かる。体の芯から火が灯されていくような感覚、これを維持出来ればいいのだが……。
しかし、そう考えている間にも魔法陣の形状は歪に変形していき、やがてヒビが入り始める。
……ダメだ、維持できない。
「ぶはっ、げほっげほっ」
魔法陣が八つの破片となって空中に消え去っていくと同時に、魔法陣があった場所からは黒煙が巻き起こった。そして、僕の口からも何かを焦がした時のような黒い煙が少量吐き出される。
体内の魔力は無属性にもどっていき、段々と体を伝う熱も下がっていく。
「……」
その様子を、赤目はただじっと見ていた。
「は、っはははははははは!! なんだお前、
そしてその沈黙を破ったのも、赤目自身だった。
優等生が劣等生をバカにするように、こいつは僕をバカにしてきた。赤目の笑い声は、人の居ないこのT字路に響いていく。パラメラを持った左手で腹を押さえ、右手で僕を指さす。
くっそ、やっぱりダメか……。
「なるほどさっきのはブラフか、ブラフにしては微妙だったから分からなかったよ。戦いなれてない証拠だな」
それでも、こいつを倒すならやるしかない……!
僕は赤目の方を無視して、ただただ自分の右手に集中した。魔法陣形成魔法陣形成魔法陣形成、
「必死だな、そんなにお前もこいつが食いたいのか。まぁ俺も、獲物を横取りされないために必死だけどな! 学生だってんなら、魔法の指導してやるよ!」
赤目の右手では、先程と同じような風の魔力弾が形成され始めていく。
このままではこっちが何かするより先に魔力弾を撃ち込まれてしまう。
くそっ、もっとだ、もっともっと!!
まるで爆発でも起きたかのように黒煙が立ち上がっていく。すごい速度で付与魔法を発動させている証拠だ。だが、どれも失敗に終わっていて一つも成功していない証拠でもある。
「そこで野垂れ死んどけ」
そうこうしている内に、魔力弾は放たれた。
弾が僕の方へと向かって加速しながら肥大化しているのが何となく分かるが、それでも僕はチャレンジを続けた。
全ては、このバトルの勝利の為に。また全ては、パラメラ奪還の為に。
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