第二頁 物語の火蓋は切られた その2
パラメラは小柄ながら、ジャンプ力は長けているし、それに見合った足腰の耐久力もある。そのため二階から飛び降りても怪我はしていないだろうが……。
「どうしよう……」
五年前に逃げ出した時、
考えるよりも先に足が動いた。
「ちょっテトラ! どこ行くのさ!」
「パラメラ探してくる!」
階段を降りた先、トキメラが驚いた表情で僕の方を見てきたが、僕はそれに構わず目線を合わせないまま返答し、靴のかかとを踏んだ状態で外へと飛び出た。
前に逃げ出した時は図書館近くにあるイルミナ中央公園に居た。今回もそこだろうか。
他にあても特にないので、とりあえず僕はそこに向かって加速した。前にあった嫌なこと、僕はこの歳になっても未だに何の
なら、トキメラと一緒に出てくるべきだったか? いや、とにかく見つける方が優先だ。トキメラのことだ、どうせ後から僕を追いかけてくるだろう。
そうしてイルミナ中央公園がすぐ目の前に来たあたりで、視界の中に
僕はすぐさま立ち止まり、それを確認する。
長髪でボサボサ頭、片目を隠した黒髪の男が、パラメラの首根っこを掴んで歩いていた。
赤い目をしたそいつは、悪を象徴するようで、絵面としてはまさに、
この世界に居るモンスターは大きく分けて二つに分類される。それがパラメラのような青い瞳をしたブルーモンスターと、赤い瞳をしたブラッドモンスターだ。
簡単に言えばブルーモンスターは人間に懐き、人と共に生活を送るモンスターの総称で、ブラッドモンスターは人やブルーモンスターの血肉を求め襲いかかるモンスターの総称のことである。
「おいそこのお前! うちのパラメラに何してる!」
僕はすぐさま声を荒らげて反応した。
今日は五年前のあの日を戒めとした
だから、そいつはすぐに僕の声に気づき顔を上げた。
「何って……食うんだよ、これ」
瞬間、僕の中の何かが恐怖を引き金にして勢いよく弾け飛んだ。
「ふざけるな!」
僕はそいつの元からパラメラを取り戻そうとした。何の悪びれもなく、平気でパラメラを食うだのと発言をしたそいつのことが同じ人間としてありえなく感じて、憤りを覚えたのだ。
だが、僕が伸ばした手は虚しくも空を掴み、パラメラの体には指一本も触れることが叶わなかった。
くそっ! 避けられた! なら次は!
そんなことを考える余裕はなかった。
「っ!?」
間一髪、僕は突然出てきたそれを
相手は、ナイフを持ち歩いていたのだった。
「正気なのか……?」
睨みつけるようにして振り返る。その視線の先でそいつは、それを乱暴に振るった後、ナイフの先をパラメラの顔に向けた。人質を取るようにして。
そいつは獲物を咥える肉食動物のようにしてパラメラを掴んだまま、不気味で余裕な表情を見せる。僕はそれを見てこれ以上ないくらいにドン引きした。
「……りするな」
「なに?」
相手の言ったことが上手く聞き取れず、前のめりになって聞き返す。向こうもこっちを向き直すと、僕はその目に驚いた。
「横取りするな!」
驚いた。こいつはパラメラを横取りされると思っているのだ。その目に宿っているのは僕に対する敵意であることに違いはないが、そこに悪意は潜んでいなかった。
あくまで赤目はパラメラを食べるのは人として当然の行為であると認識していて、僕が嘘をついてパラメラを横取りしようとしている
「これは俺の獲物だ! 奪おうとするなら、斬る!」
赤目は襲うとか加害してやるとかそういう感情で動いているんじゃなく、あくまで正当防衛を行おうとしている。まるで無人島でサバイバル生活を送っている中、生死を
ダメだ、こいつとは話が合わない。価値観が異なりすぎている。
「奪おうとするならっていうか……」
見た感じパラメラは気絶している。となると僕自身の手で取り返さないとならないのは必至だろう。
……僕が何とかしなくちゃならない。
「取り返すよ……!」
僕は、自分に喝を入れる意味合いも込めて赤目に言い放つ。この勝負には、何がなんでも勝たなくてはならない。……今の僕に、それができるだろうか。
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