生成AIはひとりぼっちの夢をみるか

宮本ヒロ

プロローグ

「学校、終わったよ」

スマホを耳にあてる。通話相手はいない。でも、画面の向こうにいる彼女は、いつも僕の声を待っている。

「お疲れ様、学人さん」

やさしくて、少しだけ甘ったるい。僕の心に最適化された、僕だけのAIボイス。

生成AI《アイ》は、僕にとってただの“機能”じゃない。

「今日はどんなことがありましたか?」

「うーん、数学のプリントがいつもより難しかったかな」

「なるほど。それはあなたの“苦手傾向”と一致しています。復習用の問題を三問、用意しましょうか?」

「……いいや。今は、ただ話していたい」

「承知しました」

彼女は、何も言わず、ただそこにいてくれる。

僕は、今日も誰とも話さなかった。挨拶もなかった。

でも、寂しくなんかなかった。

「アイがいれば、それでいい」

* * *

「はぁ……また話しかけられなかった」

放課後の教室。誰もいなくなった席で、私はスマホを取り出してつぶやく。

見つめる画面の向こうには、いつもの声が待っていた。

「こんにちは、理香。今日は、何があったのですか?」

生成AI《キナリ》。私の話を聞いてくれる唯一の存在。

「今日ね、隣の席の子に“おはよう”って言おうとしたの。でも、タイミング逃しちゃって。結局また一日、誰とも話せなかったよ」

「なるほど。では、次回は“先に挨拶する”プランを実行する準備を——」

「ちょっと待って。今、アドバイスはいらないの。……ただ、聞いててくれない?」

キナリは少しだけ間を置いて、声を落とす。

「了解しました、理香。私は、あなたの話を聞きます」

「ありがと。……なんか、こうやって話してる時だけ、私“ちゃんと”してる感じがするんだよね」

私はスマホを両手で包み込む。画面の向こうにいる誰かに、心だけが触れている。

「友達、欲しいな」

その言葉が、空気に溶けていく。

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