二つ目

 二百カ国首脳会談にて。

 こんな会話があった。

「今回はA国の負け。で、次は……我が国が負ける番ですか」

「ええ。そうですな」

「ははは、そろそろこの茶番にも飽きてきましたなぁ。外れくじは順繰りに平等に回ってきますから、作業も作業」

「が、この事務的作業が、世界に平和をもたらすわけですから、楽なものですよ」

「戦争続きのC国の民も、喜んでおります。洗脳というのは、時に善、ですな」

「まさか〈二重ふたえまなこ〉が全くの嘘っぱちだなど、誰も気づくまい」

「ほんとうに、素晴らしくも滑稽よなぁ。まったく、人間の虚構を信じる能力というのは、便利なものだ」

「おかげさまで軍事費を丸々他に回せて、助かった。あの天才には感謝しなければ」

「そうですな。あの科学者は似非エセ科学者だが、天才には違いない……」

 何を隠そう、〈二重ふたえまなこ〉が実在しないという事実は、世界の首脳陣のみぞ知る、最高機密なのだ。


 では、この小説の外の世界で起こっている、戦争蔓延る世界の記憶は、いったい誰の記憶なのだろうか?

 仮に〈睡眠世界〉が実在するならば、〈睡眠世界〉の住人が「どうして、戦争はなくならないのだろう」と呟く一方で、〈覚醒世界〉の住人は「表ではできないんだから、裏でやるしかないというわけだ」などと言うだろう。

 そして、〈睡眠世界〉では、いずれ次のような大発見があるかもしれない。

「我々の世界は、〈覚醒世界〉の住人の、睡眠中の出来事なのです! ここは〈睡眠世界〉なのです! そして我々があちらに行くには……黙って目を閉じ、眠るしかないのです」

 

 眠るというのは、多くの者にとっての安らぎのひとときであり、稀有けうな一時的現実逃避手段である。

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二重目の民(ふたえめのたみ) 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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