第14話【神の精神】
神殿から姿をあらわすオイディプス。その両目は血に赤く染まっている。
私を民たちのもとへ、白日のもとにさらしてほしい」、オイディプスのその言葉に長老たちは一様に憐憫の声をあげる。
「何をしている。その者を日の光のもとにおいたままにするな、早く宮殿の中へ、日
の当たらない場所へ」
クレオンであった。
「クレオン、おおクレオンよ。すまない、私はなんてことを」
「よいのです、それより早く宮殿のなかに」
その場で話し込む二人。オイディプスはクレオンに二つのことを頼んだ。一つは自らの身をテーバイの民の前にさらすこと。もう一つは子供たちのことであった。とくに娘二人は、蝶よ花よと育てられたので、面倒を見てやってほしいと。
子供たちとの今生の別れをすませると、オイディプスはもう一度、クレオンに、子供たちを世話してやってほしいと願った。
この執念深さ、執着が彼を真実へと至らしめたのであろう。
テーバイの民は厄災の原因を、そしてその解決を目にする。そこに歓喜の声はない。
「私が間違っていんだ。はじめて人を殺したとき、私は何も感じなかった。それが父
だと知らなかったからではない。まわりつづける歯車のように、演目どおり踊りつ
づける人形のように、あの日、あの時、あの三叉路で、運命は交錯したのだ。私
は自らの宿命にあらがい、自らの手で運命をつかみ取ろうとした。」
「だがすべては無駄だった。私はアリジゴクにとらわれ、もがき苦しむ虫けらだった
のだ。這いでようとすればするほどに運命という名の糸は複雑に、そしてより強固
に、私を絡んではなさない。」
「こんなことになるとわかっていたのなら、私は故郷をコリントスを離れようなどと
思わなかった。親のことばを信じ、なぜ彼らの子として望まれるまま、生きること
ができなかったのか。デルフォイにて神託を知ったとき、どうしてこの身は果てる
ことを選ばなかったのか。」
「決まっている、死にたくなかったのだ。この身かわいさのあまり、知らず知らずの
うちに禁忌へ足を踏み入れていた。子にして兄妹、妻にして母、殺してはいけない
人を殺し、抱いてはいけない人を抱いてしまった。口にすることさえ恐ろしい、
畜生にも劣る穢れそのものだ。父を殺し、母と交わる。」
「スフィンクスの出した謎のこたえ、それはこのオイディプスであったのだ。」
「なぜ、この目は真実をみせてはくれなかったのか。盲目の預言者が見とおす真理
を、目の見える私はなぜ、つかみとるができなかったのか。もはや何も見てはな
らない。」
「このような真実に耐えることのできる者、この私をおいてほかにいないだろう」
「見るがよい、テーバイの民よ。私こそがこの国に巣くう穢れである。かつては偉
大な王、知恵者にして権勢並びたつ者はない。だが実際は血にまみれた禁忌の殺人
者であったのだ。諸君らの王はもういない。だが私は、王として、自らの言葉を責
務を全うしなくてはならない」
「テーバイの王が命ずる。この者オイディプスをここテーバイの地より追放する。以
後決して、この地に踏み入ることは許されないものとしれ」
娘のアンティゴネに手を引かれ、ゆっくりとテーバイをあとにするオイディプス。
彼をあわれむ者はなく、その背にはありとあらゆる侮蔑のことば、軽蔑の視線が向けられた。
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