第12話【疾走する使命感】
オ「なぜ、すぐ求めに応じなかったのだ」
羊番「・・・
オ「もうよい、質問に答えるのだ。お前は昔、この国の羊番をしていたそうだな。そ
れに間違いはないか」
羊番「はい、間違いございません」
オ「どこで羊の世話をしていた」
羊番「はい、キタイロンのあたりでございます」
オ「先代のライオス王が生きていた頃のはなしだ。お前は王より赤子を託されたこ
とがあったであろう。そのことは覚えているか」
羊番「さて、どうであったでしょう。 何分昔のことゆえ、記憶があいまいにござい
ますれば」
オ「大切なことだ、思い出すのだ。これは王命であるぞ」
羊番「そういわれましても」
使者「王よ、ならばわたくしにお任せください。この者に当時の記憶を思い出させ
テてみせまする」
使者「わたしのことは覚えているだろう。あの頃わたしたちは春から秋にかけて、キ
タイロン山脈でともに羊の世話をし、冬になるとお互いの国へ羊を連れ帰る
という生活をしていたな」
羊番「ああ、そうであったな」
使者「ある時、お前は、この子を実の子のようにかわいがってほしい、と、一人の赤
子をわたしに渡しただろう」
羊番「はて、そんなことがあっただろうか」
使者「見るがよい、友よ。あの時の赤子こそ、今目の前にいるこのお方なのだ」
羊番「黙らぬか、口を閉じるのだ、この愚か者、自分がなにをやっているかわかって
いるのか」
烈火のようないかり。羊番の顔面は引きつり、けいれんを起こしているようにもみえる。
オ「何をやっている、咎めを受けるべきはお前の方だぞ。おい、お前のいう羊飼いは
この者に間違いないのだな」
使者「・・・はい、間違いありません」
オ「答えるのだ。お前はこの者に会い、ライオス王より預かった子を渡したのだ
な、どうなんだ」
羊番「王よ、老体をいじめないでくださいませ。この質問に何の意味があるという
のですか」
オ「いいか、次はないぞ、次質問に答えなければ、私はお前の首をはねる。私は本
気だ」
羊番は目に大粒の涙を浮かべ、すすり泣く。
オ「お前は赤子をこの者に渡した、そうだな」
羊番「はい、そうであります」
オ「その子どもはライオス王より預かったものだ、そうだな」
羊番「はい、そうであります」
オ「どこの子だ、ライオス自身の子か、それとも使用人の子か」
羊番「これ以上は、お願いします、どうかおゆるしを」
オ「ならぬ、答えるのだ、いいか次はないぞ、その子供はいったい誰の子供なの
だ、答えよ」
羊番「ああ、ついにこの日がやってきてしまったのか、口にするのもおそろしい、真
実を、口にせねばならない、ああ、いっそ、あの日にわが身が滅んでいれば
よかったものを」
羊番「その子供はライオス様とイオカステ様の間に生まれたお子でございます」
オ「なぜ、お前が王の子を預かったのだ」
羊番「殺すように、とのご命令でありました」
オ「誰の命令だ」
羊番「イオカステ様です」
オ「なぜだ、なぜ生まれたばかりの子が死なねばならん」
羊番「ライオス様が神託を恐れたからです、生まれた子がライオス様を殺すとの神託
があったのです」
羊番「ですが私はころせませんでした、あまりに、あまりにも、あなた様がかわい
そうで、だから、私はたくしたのです、遠くの地に運ばれれば、このような
悲劇、起らぬものと、そう、おもったのです」
すべての真実が明らかになった。神託は、すでになされていたのだ。
男の叫びは、嘆きは、慟こくとなって天へとのぼっていく。魂の抜け落ちた肉体は闇の中へと消えていく。
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