高嶺の……

白川津 中々

◾️

昔好きだった女が弁護士になっていた。


それを知り、愛が憎しみに変わった。自分が見下されていると感じたからだ。


実際会って話したわけでもない。それでもそう思う。卑屈と被害妄想が働き、どんどん惨めになっていく。彼女と比べて俺は下等な職で汗を流している。住むところも食べる物も身に纏うものも、全部違う。それだけで、否定された気分になる。


もし、俺が愛を告げていたら、もし俺と結婚していたら、彼女はここまで成功しただろうか。俺と同じく、惨めで汚い生き方をして、一日一日を無意に過ごしていただろうか。

……恐らく、そんな事はないだろう。弁護士にはなれないかもしれないが、別の形で成功し、幸せを手に入れるに違いない。そしてその時俺は彼女の横にはいないのだ。見切りをつけて、捨てられる。稼いだ日銭で安酒を買えるだけ買って、毎日呑まれて寝潰れているような人間を、あの女は側に置いておかないだろう。まったく、哀れじゃないか。現実でも空想でも、俺はそんはものなのだ。憎しみが、増す。


彼女が弁護士になったのは俺を見下すためだ。許し難い。もし俺が罪を犯し法廷に立つ事になったら、彼女に弁護を依頼しよう。そうして、足を引っ張って、無様に敗北させてやる。晴れやかな人生に泥を引っ掛けてやるのだ。俺には、その権利がある。見下され、自我を傷つけられたのだから。


彼女について考えると怨嗟の炎が静かに燃え、戦慄く拳が、壁を鳴らす。


あぁ、それにしても、惨めだ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高嶺の…… 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説