〇〇某所の自動販売機

小乃 夜

第1話 コインを入れたら?

カラン、と冷たい音を立てて、十円玉は吸い込まれていった。いつものようにジュースを買おうとしただけなのに、投入口から奥へ、どこまでも落ちていくような感覚。あれ?戻ってこない。故障かな、と覗き込んでも、ただ暗い空間が広がっているだけ。

(まさか、盗られた?)

一瞬そう思ったけれど、この古びた自動販売機は、いつもどこか頼りないけれど、お金を騙し取るような悪質な機械には見えなかった。それに、もし故障なら、「調整中」の札でも貼ってありそうなものだ。

じゃあ、このコインは一体どこへ行ったんだろう?

その疑問は、頭の中で小さな波紋のように広がり始めた。

数日後、近所の花屋のおばあちゃんが、珍しく熱心に店の隅にある小さな賽銭箱を磨いているのを見かけた。「何かあったんですか?」と声をかけると、おばあちゃんは目を細めて言った。「あら、いつもは空っぽに近いこの箱にね、この間から毎日、誰かが十円玉を一つ入れてくれるのよ。不思議でしょ?」

その言葉を聞いた瞬間、私の心臓はドキリと跳ね上がった。まさか、あの自動販売機に入れたコインが…?

そんな馬鹿な、ありえない。そう打ち消そうとしたけれど、あの時、コインが吸い込まれていく、不思議な感覚が蘇ってきた。

もしかしたら、あの自動販売機は、どこか別の場所に繋がっていて、投入されたお金は、それを必要としている誰かの元へ、ひっそりと届けられているのかもしれない。

謎は深まるばかり。あの自動販売機の裏には、一体どんな秘密が隠されているのだろう?そして、私の十円玉は、今どこで、誰の役に立っているのだろうか?

物語はまだ始まったばかり。コインの旅は、まだ終わらない。


(完)

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