愚かな猫は今日も廻る

@kiminoneko

第1話

それは生まれた。

か弱く白い一匹の猫として。


それは箱の中だった。そこには己の他に3匹似た見た目の猫がいた。


母はどこに行ったのだろうか?そもそも母という存在はいたのか?


それらの状況は紛れもなく「それ」が捨てられてしまったという事実でしかなかった。


1番上は箱から飛び出て行った。何やら騒がしかった。しゅんしゅんと音が鳴って固い地面に1番上は寝ていた。


2番目は箱から出た時黒くて大きい何かがバサバサとやってきてつれ攫われてしまった。


3番目は元々弱かった。「それ」の隣でだんだん動かなくなった。


「それ」は箱の中で悟った。


あぁ次は自分の番だ、と。


ひとり雨の中老婆が通りかかる。老婆はそれを拾い上げると家に連れて帰った。


老婆曰くそれには魔法の才があるらしい。


「それ」はそれならもう一度兄弟に会いたいと願った。


何を差し出してでも、もう一度だけ会いたかった。せめて一眼。運命が変えられなくても目に焼き付けたかった。


それは、彼女は、怪我も失敗もしながらやっと魔法を手に入れた。


「時の魔法」彼女が欲してやまないものだった。


そして全てをかけてその魔法を使った。


…………。

………………。


結果は失敗だった。


正確に言えば、習得する前の時間には干渉できなかった。


彼女は絶望した。彼女の願いは兄弟を一眼でも見る。一度でも会う。それだけだった。魔法の代価は相応したものが相応しい。


彼女は魔女姿以外ではあまり目が良くない。代価を支払っているからだ。


でも彼女はとても運がいい。彼女は猫だからだ。猫の魂は何度も転生できる。


魔法は魂に刻まれる。故に魔法を持ったまま何度も。


愚かな猫は今日も廻る。もしかしたら、別の姿で逢えるかもしれないと、淡い期待を描いて。

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