第5話 優しい
僕が山田君に電話をしてから2~3日後、岩村さんは僕を会館に連れて行った。
男子部が数十人集まって、唱題(南無妙法蓮華経と唱える)をしていた。
みんなで10分くらい唱題をした後、幹部の1人が前に立ち、なにやら選挙に関する指導をした。
そして、その幹部はものすごい声で
「自民党の○○に鉄槌を降す!!」
と叫んで、左手のこぶしを上から下に降りおろした。
その後、別の幹部がさっきの幹部とは全く違う穏やかな口調で指導を始めた。
「勤行、唱題、教学、選挙はセットなんです。どれも、やらなければいけない」
と、その幹部は語った。
僕は内心
(勤行、唱題、教学は良いけど、選挙はやりたくないなぁ)
と思った。
(でも、やらなければいけないのであれば、やらなければいけない)
(セットである以上、どれか1つが欠けたら全てが無駄になってしまう)
そう考え、僕はやはり肩に力が入った。
僕は家に帰ると夕飯を食べながら、父と母に断腸の思いで
「公明党をよろしく」
と、つぶやいた。
父はビールを飲みながら
「俺は科学を信じる」
と答えた。
母は微笑みながら
「お前も公明党の人みたいになっちゃったね」
と言って、ご飯を口に運んだ。
選挙も終盤に近づき、そして又、岩村さんは僕を会館に連れて行った。
今度は十数名の男子部が集まって車座になって座り、端の人から順番に活動報告と、これからの目標を話し始めた。
「今、Fは20です。目標の30に向けて頑張ります!」
等と、みんな張り切って叫んでいた。
大抵の人のFは20~30だ。
岩村さんは150だそうだ。
僕は山田君と両親の3だけだ。
(順番がきたら何と言おう)
と、僕の胸の内はモヤモヤしていた。
さて、僕が話す順番がきた。
でも、司会者は優しかった。
「正縁さんは御両親にFを頼んだ時、どんな気持ちでしたか?」
と僕に尋ねた。
「はい、とても緊張しました!」
と僕は声を張り上げた。
司会者は笑いながら
「そんな無理をしなくていいですよ。自然体でいきましょう」
と言ってくれた。
創価学会員は優しい人が多い。何故こんなに創価学会の評判が悪いのか、僕は分かるようで分からなかった。
何はともあれ、僕はF取りが大嫌いだ。
そして1週間程経ち、公明党が(大勝利で?)選挙が終わった。
これで、しばらくは勤行、唱題、教学をやっていればいい。
しかし、常に選挙は1日、1日近づいてくる。
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