第3話 憲法第ニ十条
大学の夏休みが始まって、僕は東北の故郷に帰省した。
僕は創価学会に入会したことをずっと両親に言うことができないでいた。
それは座談会に出席していたオジサン達が全員公明党の支持者で、それが不自然だから、後ろ暗い気持ちが僕にできたからだ。
もう夏休みも終わりに近くなった。
このまま両親に黙っているわけにもいかない。
僕は両親と夕飯を食べている時に、思いきって、僕が創価学会に入会したということを両親に報告した。
母は創価学会のことはよく知らないらしく、黙ってお茶をすすっていた。
父は、うーん、と天井を見た後、僕の顔に視線を戻し
「あれは政教一致だからダメだ。俺の部屋に百科事典がある。巻末に日本国憲法があるから、その第二十条を読め」
と僕に命じた。
僕は父の部屋から分厚くて重い百科事典をキッチンに持ってきた。
僕はページをめくって日本国憲法を探し当てた。
そこにはこう書かれていた。
第二十条
①信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
僕は父に尋ねた。
「ここにある(宗教団体)というのは創価学会のことなの?」
父はご飯を食べながら答えた。
「俺もジャーナリストじゃないからよく分からないが、お前もあまり深入りしない方が良いぞ。君子危うきに近寄らずだ」
僕は憲法第ニ十条をノートに書き移した。
「僕が学生寮に戻ったら、これを鈴木君に見せてみるよ」
と僕が言うと
「鈴木君?」
と父が尋ねたので
「僕を創価学会に誘った人だよ」
と僕は答えた。
「ああ、見せろ見せろ。鈴木君は何と言うかなぁ」
と父は笑顔でそう言った。
そして、夏休みが終わる2~3日前に、僕は学生寮に戻った。
僕は早速、鈴木君の部屋に行った。
僕がドアをノックすると
「はい」
という鈴木君の返事がしたので、僕はドアを開けた。
その時、鈴木君はどこかに出かけるところだったらしい。
「ちょっといいかな?」
と僕が尋ねると、鈴木君は
「何だい?」
と言ってベッドに座り直した。
僕は憲法第ニ十条が書かれたノートを鈴木君に差し出し
「こういうのをお父さんに教えられたんだけど、どう思う?」
と聞くと、鈴木君はさらっとノートを読み
「創価学会と公明党が憲法第ニ十条違反だとすると、宗教をやっている人は政治活動ができないっていうことになるよ」
と言って僕にノートを返した。
僕は
「う~ん」
と、うなり、何も反論できなかった。
鈴木君は立ち上がり
「俺、これから公明党の事務所に手伝いに行くんだ。正縁も行かない?」
僕ははっきりと
「行かない」
と断った。鈴木君は
「面倒くさいこと考えないで、来れば良いのに」
と言ったが、僕はもう1度
「行かない」
と言い、そそくさと鈴木君の部屋から出た。
父が言っていた
(お前もあまり深入りしない方が良いぞ)
という言葉が、僕の心に残っていたからかもしれない。
僕は自分の部屋に戻って、鈴木君が言ったことを考え直した。
宗教をやっている人が個人的に政治活動をするのは問題ないと思う。
でも、座談会に出席している人が全員公明党の支持者、つまり、組織的に宗教団体が選挙活動をしていることに、僕は疑問を感じた。
ただ、鈴木君は持論をべらべらとまくしたてるところがあるので、この疑問をもう1度、鈴木君と言い争うのが、僕は面倒だった。
僕はこの疑問をいつしか胸の中に収めた。
僕はもっと徹底的に、鈴木君と話し合うべきだったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます