第三章 連鎖

彼女の姿は、日に日に異様になっていった。

メイクは濃くなり、肌の色味はどこか蝋人形のようだった。


骨が浮き出た細い手で器用にカメラをいじりながら、彼女はにっと笑った。

配信ボタンをクリックする。

ズズッ...


「今日は……特別な供物を用意しました」


そう言って始まった配信の画面には、白い布の上に並べられた包丁とガラス瓶。

その中央にあったのは、見慣れた“黒いレシピ帳”だった。

レンズ越しでもわかるほど、異様な熱気が漂っていた。


「みんなに、ちゃんと伝えなきゃって思ったの。これが、ほんとの“タタリメシ”だって。」


彼女は布をめくると、自らの左手の甲を見せた。

そこには、鮮やかに彫られた供物の印——禍々しい模様のような火傷跡。


「わたし...あげた...よね....」


小さな声でそう呟いた次の瞬間、彼女は右手に包丁を握り締め、そのまま上に大きく振り上げた。

「ほんのちょっとでいいの!ほんの、少しだけ……“わたし”を入れれば——」

全力で駆けた喘息持ちの小児のように、ガァーガァーという息継ぎの合間に彼女の声が小さく響く。

「かえってくる....もっと....もっと、みんなに....届くから……そしたら...かえってくる...!!」


ゴンッ。

鈍い音がした。

その音は、誰にも届くことはなかった。


──画面真っ黒なんだけど...

──まだー??

──あれ?もう終わった?

──ノイズやばww機材トラブルかよww


────────────────────


「こんにちは〜! 今日はちょっと変わったレシピをやります〜。じゅしょくくもつ..?って言うらしいんですけど〜……」

「なんか変な名前だよね〜」


コメント欄には、賑やかな反応が並ぶ。


──初見だけど面白そう!

──うわ、懐かしい!

──え、これ……同じ場所じゃない?

──うしろ……なにか、いる?

──気をつけて、"捧げた分だけ返ってくる"から...


「……あれ? なにこれ、やば……やば……」


画面の奥、暗がりの中で、かすかに鈴の音が鳴った。


──おわり──

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饕餮の舌 三好 詠佑 @miyoshi_eisuke

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