第2話 あの時は間がさしただけなの!
「ねえ、あんたって、あの子と付き合い始めたんでしょ?」
「な、なんでそれを?」
新しい彼女と付き合い始めた日の昼休み時間。
元カノの
「噂で聞いただけ」
「そ、そうか」
「あのさ、私と、もう一度付き合ってみない?」
恵麻は悠一との距離を詰めてくる。
恵麻はウエーブのかかったセミロングヘアスタイルをしており、派手目な格好をしている子だ。
髪色も茶髪と白のカラーが混じった感じで、今どき風の雰囲気がある。
制服は着崩し、若干露出度の高いナチュラルなギャルといったところ。
「なぜに? 俺を振った時、遊びだったって言っていただろ」
「そうなんだけど。本当は好きだったの。あの時は魔がさしてしまって」
「そういうのは信じられないかな」
「なんでよ。誰にだって失敗することくらいあるでしょ?」
「そうかもしれないけど。君の場合はそうじゃないと思うんだよね」
「お願い」
目の前にいる恵麻は上目遣いで話しかけてくる。
しかし、悠一は普通に断った。
「なんでよ、私がこうして親切に話しかけてるのに! 私、本気なのにッ!」
「一度振った人の意見は聞けないよ。それに、別の人と付き合っていたんじゃないの?」
「その人とは別れたわ」
恵麻はキッパリと言い切っていた。
「振られたってこと?」
「違うし。私の方から振っただけ」
「そ、そうなんだ……でも、もう付き合っている人がいるから。俺さ、これから用事があるから急ぐね」
「は? 私の会話はまだ終わってないわ」
恵麻から左腕を掴まれるが、悠一は普通に振り切った。
面倒な奴と会話をしたところで埒が明かないとわかっているからだ。
今は昼休み時間。
これから屋上で絃葉と昼食を取る事になっている。
そんな大事な時間を面倒な元カノの為に消費したくないのだ。
悠一は、再び恵麻から掴まれる前に、その場から駆け足で立ち去る。
背後からは彼女の声が聞こえてきたが、振り返る事はしなかった。
悠一は昼休み中。予定通りに
その日の午後は授業を受け、放課後になると悠一は帰宅する準備をする。
これから、絃葉と一緒に街中で遊ぶ事になっているのだ。
気分よく準備を整えた悠一が席から立ち上がった頃合い、校内放送がかかる。
【本日から図書委員会になった人は、これから図書館でミーティングを行いますので、全員出席お願いします。繰り返します――】
悠一の気分が下がる。
本が好きで今年も図書委員会に所属したのだが、まさか、当日からミーティングがあるとは思わなかった。
「ごめん、今日は一緒に帰れないかも」
悠一は隣の席の絃葉に伝えた。
「わかったわ。先に街中に行くね」
絃葉はしょうがないよねといった顔つきになり、席から立ち上がる。
「ミーティングが長くなるかもしれないし。今日は難しいかも」
「そうなの? じゃあ、今日は無しってこと?」
「うん、多分ね。ごめんね、こちらの都合で」
「いいよ。橋本君が悪いわけじゃないし。そういう時もあるよ。ミーティング頑張って」
絃葉は明るく振舞っていた。
彼女は通学用のバッグを肩にかけると、その場に佇んでいる悠一に手を振って教室を後にして行く。
悠一は通学用のリュックを背負い、別校舎にある図書館へ向かう。
図書館に入ると、去年とは若干違うメンバーの面々が集まっており、テーブル近くの席に座っていた。
新しいメンバーが多くて、少々不安な気持ちになる。
「ごめんね。急に呼び出してしまって。今年のメンバーは全員集まった感じかな」
図書委員会を統括しているのは、文芸部の
ポニーテイル系の髪型が特徴的で、文化系という割には運動部並に声が大きかったりするのだ。
部長は皆が座っているテーブル近くに佇んでいた。
部長の手元には、図書委員会に所属しているメンバーの一覧表があり、それを見ながら出席を取り始めたのだ。
「悠一君」
「ん? 莉愛、久しぶりだね」
すでに席に座っている
ショートヘアスタイルな莉愛は、ヘアピンをつけている。
アニメキャラのテーマカラーを模したヘアピンをしている事から、悠一はすぐに彼女の存在に気づいた。
少々大人しめな外見をしているが、趣味の話題になると饒舌になる子だ。
悠一は、彼女と同じ趣味だった事もあり、去年から仲の良い関係を続けていた。
「今年も一緒なんだね。悠一君が来てくれてホッとしてるって感じ」
「俺も。クラスは変わってしまったけど、今年もよろしく、莉愛」
「うん」
悠一は、リュックを床に置いて、莉愛の隣の席に座る。
「全員いる感じだね。じゃ、今から一時間ほどミーティングをするから。新入生からしたら今日が初めてだと思うし。わからないことがあったら、じゃんじゃん質問してきてもいいからね」
小鳥遊部長は一年生の方を見て、目が輝かせて発言していた。
部長は他人に物事を教えるのが好きな性分なのである。
「じゃあ、早速ミーティングをしよっか。まずは自己紹介からお願い」
小鳥遊部長は皆の姿を見ながら話を進める。
部長の大きな声のお陰で、普段から暗い図書館の雰囲気が明るくなっていくのであった。
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