第26話 その後 ダリアの誤算
上手く行くはずだった。だってこの作戦を考えてくれた人は侯爵様だったし、途中までアネモネは完全にナルク様も私も疑っていなかったのにどうしてこんなことになっちゃったんだろう。
「ダリアッ! 金がないってどういうことだ!」
「あんたが悪いんでしょうがっ! 何が倍にして返すだ?! 一度だって勝ったことないくせに!」
「そ、それはたまたま昨日調子が悪かっただけ」
「毎日調子悪いじゃない! あんたが調子いい日なんてないじゃないっ!」
「うわっやめろっぎゃっ」
賭け事でなけなしのお金を全部失って帰ってきたナルクの頬を思いっきり殴りつけた。私より腕っぷしが弱いナルクは汚い木の床に倒れ込み気を失っている。なんて情けない男なの!
「こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったのに」
隠れてナルクと私の子供であるケイジュを産んで、良い時期になったらアネモネを始末して私達でウィンフィールド公爵家の当主の座に座って贅沢三昧のはずなのに、私は何故かオンボロな平民の家に住んでいる……私の実家のマリクス家まで追い出されたのよ!
「かあさん、飯」
「お黙りっ! ケイジュ、お母様でしょうっ」
「……」
チッと舌打ちをして無言で出ていくマナー知らずの息子。ああ、どうしてこんなことになってるの!? 支援してくれるはずの侯爵様もずっと連絡が取れない。風の噂では処刑されたとか聞いたけれど、まさかそんなことがあるわけない。早くこの状況を何とかしてもらいたいわ、私はあの人のいう通りにしたんだから!
それにしても明日のパンを買うお金もない……どうしたらいいのかしら。そして私は気が付いたの。
「そうだ、アネモネの所にお金を借りに行こう。どうせあのアネモネよ、上手く丸め込めばまた私のことを親友っていいだすわ。それにあいつは私の知る限り友達もいないし仲良くしてあげるっていえば」
なら早い方が良い。床に転がったままのナルクを置いて、私は学生時代にアネモネとお揃いで仕立てたワンピースを引っ張り出した。
「うっ……きついけど、上着を着れば大丈夫よね」
後ろがしまらなかったけれど学生時代のワンピースだから仕方がないじゃない。かなり子供っぽい服だけれどこれより見栄えがする服がない……あーあ、学生時代はナルクがドレスを買ってくれたけど、今じゃ穴が開いてつぎを当てた服しか着てないわ……なんて情けないのかしら。
「アネモネに会いたいの!」
「面会のご予約はおありか?」
「私は友達なのよ! そんなのなくても会わせてくれるくらい良いじゃないっ」
「お帰りください」
「嫌よ! アネモネに会うまで帰らないわっ」
公爵家の正門の前に座り込む。衛兵だってか弱い女性に乱暴なことはしないでしょう?!
私が衛兵と言い合いをしている間に、何台か豪華な馬車が大きな公爵家の門を通って中に入って行く。
「なんであいつらは通すのよ!」
「リリーベル様もウィスタリア様もお客様だ! お前のような不埒者とは違うっ」
「私はアネモネの友達だっていってるでしょうっ?!」
リリーベル? ウィスタリア? 一体誰? 私は学園を途中で退学してしまったから私がいなくなった後に友達になったってこと? まあどうでもいいけど。私が騒ぎまくっていると、中から執事が出てきた。
「若旦那様がお会いになるそうです」
「やったぁ!」
入ってしまえばこっちのものと意気揚々と久しぶりに足を踏み入れたアネモネの家は前より華やかになっていた。前より儲かってるみたいで置いてある壺とかは凄い高そうだし、絵とかも高そう! 一つくらい貰って上げても良いんじゃないかしら?
「さっさと歩けっ」
「うるさいわねっ分かってるわよっ」
花瓶に手を伸ばそうとすると衛兵が声を荒げた。若旦那様の執務室とやらまで歩いているけれど、衛兵が二人ついてきてちょっと立ち止まろう物ならどやされる。ふん、私を泥棒か何かと思ってんの? 案内され、階段を登って二階へ行くと、廊下から中庭が見えた。
「あれ? アネモネじゃない……」
「黙って歩け!」
「もうっ何よ」
中庭でアネモネが何人かとお茶を飲んでいる。お茶会かしら? 後で私も顔を出して上げなくちゃ。どうせあばずれのアネモネには仲良しの友達なんていないんでしょ? しかもアネモネってば随分太ってたような? かっこわるぅい! ちょっとくらい笑い者にしてやらないと気が済まない。そう思っていると大きな扉の前にたどり着いた。
「若旦那様、例の」
「入ってくれ」
声がして、執事が扉を開けると、中から眩しい光に照らされたような気がした。
「ダリア・マリクス夫人か」
「わ……素敵……」
中に通されると、サラサラの金髪がきれいな男性が執務机で書類を書いていたようで、その場で目を上げた。……この人って、元王太子よね? あばずれとタネ無し廃嫡王太子の結婚話は有名だもの。ていうかその話は今は薄れて来て、なんか知らないけれど家を守るために、一夜を共にした男女が後々めぐり逢い幸せに暮らすっていう美しい話に変わってたけど、あのアネモネの話とは別の恋物語なんだと思う。アネモネが幸せ? 冗談じゃないわ、私がこんなに不幸なのに!
でもこの元王太子顔はかっこいいけど、所詮タネ無しよね? かっこ悪ぅ!
「今日は何用ですか? あなたとアネモネはもう何の縁もゆかりもないはずだが?」
「そんなことありませんわ。私は学園時代アネモネの唯一の親友ですもの。アネモネから聞いておりません?」
「……アネモネからそんな話は一言も聞いていませんね」
あら? アネモネったら旦那様に学園時代の話はしていないのかしら? それともこの夫婦何か溝があるのかも……そうだ、私がこの人を貰っちゃうのはどうだろう? 学生時代ナルクだって即私に乗り換えたもの。アネモネの男なら私が貰っても構わないわよね?
「ええ~そんなことないですわぁ。そうだ、私がアネモネの学生時代のことを教えて差し上げましょうかぁ?」
ふふ、そうしてすり寄って行けば、アネモネの貧弱な体より、私の方を好きになるはず。近寄ろうとしたら衛兵がまだ居てこちらを睨んでいる。ええ~邪魔ね、出て行けばいいのに。二人っきりになりさえすれば、私の思うままよね?
「必要ありません。アネモネから学生時代のことは良く聞いていますからね、ええ、本当に良く聞いています……マリクス夫人、はっきり言っていいのですよ。お金が欲しいってね」
「はあ!? 私はそんな物乞いのようなことは……」
「デニス家からの違約金の支払いも遅れています。確か違約金はナルク氏が支払う予定の物だそうじゃないですか。すぐお支払いいただけますか?」
「そ、そんなの無理よ!」
い、違約金!? 聞いたことがあるようなないような……確かナルクが禁止されたのにアネモネに会いに行って発生したものだとか。わ、私は大丈夫よね、そんな約束してないもの!
「今も借金取りに追われて大変なのでしょう? そこで相談です、もう少し広い家に住みたくないですか? この提案を飲んでくれるなら、違約金もなかったことにして差し上げますが」
「えっ? 本当!?」
私はついその美味しい話に飛びついてしまった。さっと出しだされた契約書を書き終わるまでニコニコしていたアネモネの旦那だったけど、サインが終わるとなんだか急に冷たい感じになった。笑顔が消えて、無表情……? いや、私を見下しているそんな目だ。
「連れていけ」
「はっ」
「え? なに? なんなのーっ」
有無を言わさず部屋から引き出され歩かされる。途中、窓からアネモネと数人がお茶をしている中庭が見えた。せっかくだし久しぶりに挨拶してやろうと思ったら衛兵が剣を抜いた。
「とっとと出ていけ! アネモネ様に会えると思うな!」
「な、なによ……私達は友達」
「静かに歩けッ!」
「ひっ」
仕方がなく、私は窓の外をチラチラ見ながら歩く。太ったと思ったアネモネはよく見たらお腹が大きいんだわ! え、だってあのアネモネの旦那はタネ無しでしょ? あーやっぱりアネモネだもんね、流石アバズレ! またどっかで男を引っ掛けて来たんだわ、何よアネモネなんて私以下じゃない! サイテーね。
「行け!」
「ふんっ」
なんと帰りは裏口から追い出されたけど、私よりアバズレなアネモネの姿を見れてちょっと気持ちが晴れたわ。それにナルクの借金もなくなるみたいだし広い家に引っ越せるし。私にも運が向いてきたみたいね、うふふ! そのうちアネモネの旦那も貰ってあげなくちゃだわ……!
でもニヤニヤ笑いながら出て行った私をあの種無しとウィンフィールド家の執事は冷静に見ていたらしい。
「いいのですか? 若旦那様」
「もちろんです。王都にあの二人がいてはこれから先、何度現れるか分かったものではない。そのたびにアネモネの心が乱れるなら早めに処分した方がいいでしょう」
「仰る通りです」
「しかし……どこに引っ越すかきちんと確かめもしないでサインするとは、流石の私も驚きです。早速明日、手配してダリアとナルク、そして息子を辺境の屋敷へ送ってしまってください。行きは高速馬車を使って逃げ出さないように」
「すぐ手配致します」
「辺境の屋敷は広いですよ……いやになるくらいにね。さて、デニス侯爵を呼び出しましょう。違約金をこれ以上払いたくなければ次男のことは忘れた方がいいとね」
そんな話は耳に入るはずもない私はスキップしながら、家へ帰った。引っ越しの準備をしなくちゃいけないものね。次の家はどこだろう? 絶対平民の家は嫌よ。広いなら貴族街にある家かしら? アネモネの家から近いと良いわね、だって近いなら行きやすいもの。あの元王太子を誘惑したり、飾ってある壺も貰ってこようかしら? もしかして、学生時代みたいに私の方が気に入られて、アネモネが追い出されちゃうかもしれないわぁ~。そしたら私がウィンフィールド公爵夫人ね、あり得るわ。
ああ、楽しみ! 早く新しい家に引っ越したいわ!
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