ましまろ
秋犬
小5の夏
保育園の時からの友達のみいちゃんに誘われて、キャンプ場に連れてきてもらった。みいちゃんは成績優秀でタワマンに住んでて、日曜日はパパの趣味のアウトドアに付き合っている。みいちゃんパパには私も何度かお世話になっていた。何でもできる、スーパーパパさんだ。
「
「はーい、どうぞはーちゃん」
長い髪を白いピンで留めているみいちゃんはお嬢様みたいでかっこよかった。浮ついたふりふりのプリンセスって感じではない、ママの読む雑誌の中とかにいる令嬢って感じ。そんな素敵なみいちゃんから大きなマシュマロを手渡されて、私は串に白い塊を刺した。
「もっと炭に近づけた方がうまく焼けるよ」
みいちゃんパパがニコニコして言う。マシュマロを焼くのが初めての私はさっき焦がしたマシュマロが怖くて、熱くなった炭の上空でマシュマロをぷるぷる震わせていた。
「じゃあ、一緒に焼こう!」
みいちゃんが私のマシュマロの串を一緒に掴んで、白い塊を炭に近づける。
「私ね、マシュマロ焼くのは上手いんだ! パパ仕込みなんだから!」
「今では美由紀のほうが何倍も上手いぞ」
「そんなことないよ!」
みいちゃんの手さばきで、マシュマロがじっくり炭の上で熱を持っていく。じわっと茶色く焦げた部分をくるりと素早く回して、白い面をまたじっくり炭に当てる。みいちゃんは本当にマシュマロを焼くのが上手い。
「はーちゃん、楽しいね!」
「うん、楽しい」
確かにキャンプは楽しかった。みいちゃんのパパのキャンプ飯とか、林道で花や鳥を探したりとか、川で魚を見つけたりとか、本当に楽しかった。真っ白なマシュマロが次第に茶色く焦げていくように、私たちにも思い出が刻まれたような気がした。
「来年もまたキャンプしたいね!」
「できればね」
みいちゃんは好きだ。かわいいし、性格もいいから。みいちゃんのパパも好きだ。かっこいいし、嫌なことはしてこないし。二人のことが好きだ。とってもいい人たちだから。
それなのに、どうして私は余計なことを考えるんだろう。来年の夏は受験が心配だから? うちのパパはこんなことしてくれないから? ママがいつもみいちゃんみたいになれって言うから? 私がみいちゃんみたいになれないから?
「ほら、食べ頃だよ」
「ありがとう」
みいちゃんの焼いたマシュマロは全体が程よく茶色に焦げていて、ふわっといい匂いがする。熱々のマシュマロの中はとろりと砂糖が溶けていて、濃厚な味わいがあった。どうだすごいだろうというみいちゃんの顔を見ると、私は本当にみいちゃんには敵わないなと思った。
「今度は私が焼いてみる」
「がんばれ、はーちゃん!」
私は手渡された大きなマシュマロを串に刺す。これがみいちゃんとの最後の思い出かも知れないと思いながら、私は震える串を炭にかざした。
〈了〉
ましまろ 秋犬 @Anoni
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