第4章:異世界での初戦闘

相手を睨みながら、俺は勝つための戦略を考えようとする。

だが、どう考えても勝てるビジョンが浮かばない。

あいつの動きは異常だ。速くて強くて、リーチも広い。


ウゼン「なあ、お前なんで急に襲いかかってくんだよ?俺、お前に何かしたか?」


「とぼけるな、蛮族め。戦闘中に背後から司令官を襲おうとするなど、これほど卑劣な行為が他にあるか、クズが!」


ウゼン「襲う気なんてなかった!それに、なんで俺のことを蛮族扱いしてるんだ?さっきも別の連中をそう呼んでたよな……まさか、俺があいつらの仲間だと思ってるのか?」


「他にどう見える?お前も蛮族だろうが。戦争に負けて人も土地も失ったくせに、まだ懲りずに我がラザロス帝国の領土に侵入するとは、どこまで愚かな連中だ!」


……よし、会話して正解だった。

今のやり取りで、この世界の状況と俺がどこにいるか、少しだけ情報を得ることができた。

うまくすれば、このまま戦わずに済むかもしれない。


ウゼン「だから違うって!俺はあいつらの仲間じゃない!たまたま森にいて、悲鳴を聞いたから見に来ただけなんだよ!」


「ふむ、なるほど……そう来たか。だが、そんな子供騙しでこの俺を欺けると思ったのか?よかろう、ならば黙らせてやる!!」


男は剣を構えたまま素早く間合いを詰め、俺の肩を狙って剣を突き出してきた。

なんとか反応してナイフで受け止めるが――


その一撃は重すぎた。


一瞬で俺のナイフはへし折れ、剣は俺の肩を浅く切り裂いた。

俺はすぐさま後ろに跳んで距離を取る。

くそっ……痛ぇ!マジで痛ぇ!

血がドバドバ出てきて、肩がもう動かない!


男は一瞬立ち止まり、俺の苦悶に笑みを浮かべる。

そして再び突進してくる。

また斬りかかってくると思い、俺は再度後ろに跳んだ――

が、今度は剣を使わず、飛び蹴りを食らわせてきた。


ウゼン「ぐはっ!!」


蹴りは腹に直撃し、俺の体は数メートル吹き飛ぶ。

地面に叩きつけられ、呼吸すらできない。

何か食ってたら確実に吐いてた。


ウゼン「くっ……このクソ野郎……!」


再び俺に向かって突進してくる男。

咄嗟にパンチを繰り出そうとするが、腕が動かない。

……切られたときに神経までやられたか。

もうすぐそこまで来てる!何かしなきゃ!


相手が接近した瞬間、体をひねって回し蹴りを放つ。

だが男は屈んで回避し、反撃の肘打ちを俺の顔面に叩き込んできた。

……くそっ、こいつ……殺す気ないな。

剣でとっくに終わらせられるのに、あえて肉弾戦で嬲ってる。

完全に遊ばれてる……!


肘打ちの衝撃で後ろによろめく俺を、男はすかさず掴み、袖を引っ張って俺の体を引き上げた。

恐ろしい笑顔を浮かべながら――

こいつ、人間じゃねぇ。敵うわけねぇ……

だけど――一発くらい入れてやらなきゃ気が済まねぇ!


俺は血を吐き、それを奴の目にぶちまける。

そして、まだ動く左腕で頭を掴み、渾身の膝蹴りを顔面に叩き込む!


奴は鼻を押さえて後退し、鼻血を流しながら叫ぶ。


「このクソッタレがあああああああ!!!!」


殺気に満ちた目で俺を睨み、信じられない速さで突っ込んできた。

その勢いのまま、拳を俺の顔面に叩きつける。

俺の体はまたもや吹き飛ばされ――地面に背中から落ちる。


意識が朦朧とする中――

更なる追い打ち。蹴りで宙に跳ね上げられる。

空中で捕まり、今度は木に叩きつけられた。

衝撃で木が揺れ、葉や枝が降ってくる。


……やばい。

今のはマジでやばい。

脚が……動かない。

たぶん、背骨やった。

痛みすら感じない。神経がもうダメなんだろうな。


……無理だ。勝てるわけがない。

全力で入れた膝も、出血程度しか与えられなかった。

やらなきゃよかった。完全に本気にさせちまった。

もう、話し合いなんて通じない。


これで……終わりか。

せっかく異世界に来れたってのに、もう終わり?

なんなんだよ、それ。


あの神……確か「この世界は平和だ」って言ってなかったか?

どこが平和だよ。

前の世界より酷ぇじゃねぇか!!


「最初は、楽に殺してやってもいいかと思ったがな……貴様、本当に俺を怒らせたぞ、卑怯者の蛮族が!!今すぐその痛みと絶望の中で死ねぇええええ!!!!」


男は剣を振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。


……クソ。


俺は目を閉じて覚悟を決めた。


……が、斬撃は来ない。

数秒後、恐る恐る目を開けると――


時間が止まっていた。


すべてが静止している。

何が起きたのか分からず、辺りを見渡すと……

すぐ近くの木の上に、あのクソ神が座っていた。

あのふざけた笑顔で、まるで子供のような無邪気さを浮かべながら。


……お前、最初から俺を騙してたな。

苦しむ姿が見たかっただけかよ。


カルマ「その通り!この世界、気に入ったか?俺はこう呼んでるんだ。“小さな混沌の庭”ってな!……まあ、現地の奴らは“サーガ”って呼んでるがね。争いと暴力が絶え間なく続くこの楽園……見てて飽きないぜ!」


……ふざけんなよ。

お前、神なんだろ?

なんでこんなことを?

なんで俺をここに送り込んだ!?


カルマ「……忘れたのか?俺は“邪神カルマディオス”。

愚か者の過ちを裁き、罰し、そして人間の滑稽さを笑う神。

それが俺の存在意義だ。

……お前に関しては、ただ面白そうだったからだよ。

だが残念ながら、早すぎたな。ちょっと運が悪かったな、ちょうど二国間の紛争に巻き込まれたってわけだ」


……ふざけんな。

絶対に……お前を殺してやる!!


カルマ「おっ、来るか?いいねえ!……まあ、まだお前にはやってもらうことがあるから、最後に一つ、チャンスをやろう。あとオマケもな」


なんなんだよその上から目線……

挑発してやがる……!


カルマ「ちょっとだけ手助けしてやる。

それでも生き残れないなら、それまでの器だったってことさ」


……ふざけんなよ。

でも……生き延びられるなら、なんでもいい。

さっさとやれ。

でも絶対に忘れるな。

俺はお前を見つけ出して、殺してやる。


カルマ「母親との約束を果たすため、だろ?いいだろう。

楽しませてくれよ、人間の子よ」


クソが……!

どんな手を使ってでも……この男を探し出して殺してやる。

そのためなら――

この世界で、最強になってやる!!


そして、ふと時が再び動き出した。


騎士が俺に向かって剣を振り下ろす――その直前。


俺の足が動いた。

動くはずのない足が、俺の体を支えてくれた。


剣が届く前に、俺は前に踏み出した。

動かなかった右腕も、今はしっかり力が入る。


俺は右手のスパイク付きメリケンサックで、奴の胸に渾身の一撃を叩き込んだ。


騎士の体が吹き飛ぶ。


着地した彼は、自分の胸部の凹んだ鎧を見つめ――

次に俺を見た。


その目には、恐怖と驚愕が浮かんでいた。


俺の脳裏に、一つの単語が響く。


【テナシティ】


ウゼン「……第二ラウンド、いくか?」

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