第3章:深化

俺は森に向かって歩き出しながら、考え込んでいた。


なんか……おかしいよな。

別に異世界とか詳しいわけじゃないけど、漫画とかで何度か見たことはある。

普通、死んだら転生じゃないか?

赤ん坊から人生やり直すパターン。

俺、ちゃんと死んだはずなのに……体は元のままだ。

しかも、死んだときと同じ服とアクセサリーを身につけている。


俺は腰に手を伸ばす。


死ぬ直前と同じ状態なら――

あのナイフとメリケンサックもあるはずだ。


手を上げて確認すると、予想通り、そこにあった。

それを見て、さらに疑問が深まる。

普通なら、特別なスキルとか伝説の武器とか、そういうものをもらえるんじゃないのか?

でも今の俺にあるのは、ナイフとメリケンサックだけ。

このファンタジーっぽい世界で、モンスターとかに出くわしたらどうすんだよ……。


俺は心配そうにため息をついた。


攻撃されたらどうする?

確かに、素手の戦いならそこそこ自信はある。過去が過去だしな。

でも相手がファンタジー系のモンスターだったら、どうしようもないだろ。

はぁ……いや、それ以前に今の問題は――

腹減った。


「ウサギみたいなのでもいねぇかな、捕まえられるやつ……」


俺は空を見上げてまたため息をついた。


っていうか、狩りとかできるわけないし。

火を起こして肉を焼くとか、そんなスキルもない。

ただの喧嘩屋だぞ、俺は。

現代人だったはずが、気づけば原始人みたいなサバイバル生活とか、誰が想像した?


そう思っていると、空に二本……いや、三本の光の筋が走った。


なんだ、あれ?

速すぎて飛行機じゃない。

隕石……か?でも妙に細くて速い……。


その奇妙で美しい現象に見とれていると、森の奥から響く、耳をつんざくような叫び声が聞こえてきた。


人の声……間違いない。


少しだけ躊躇しながら、声の方へ向かうことにする。

歩みを速め、走り始めた。

障害物を避けながらスムーズに進む。

叫びが近づくにつれて、俺は慎重に動くようになり、ナイフとメリケンサックを手にして木陰に身を隠しながら進んだ。


そして――

たどり着いた先で、俺は衝撃的な光景を目にする。


明らかに異なる二つの集団が戦っていた。

その戦いは凄惨という言葉では足りない。

まるで映画のような――いや、それ以上に現実離れした殺し合いだった。


重装備の兵士たちは、容赦なく敵を斬り裂き、手足を切断していた。

相手の人数は多いが、完全に圧倒されていた。

比率で言えば、兵士が10人、相手が50人。

ボロボロの服とローブを纏った連中で、まるで盗賊だ。


……なんなんだこれは?

あの自称・神は「平和な世界」とか言ってなかったか?

なのに、こんな武装した連中同士が殺し合ってる?


やばそうだと思い、俺は静かにその場を離れようとする。


さすがにこれは無理だ。

素手の喧嘩ならともかく、あの騎士たちの動きは人間のものじゃない。

剣を振った瞬間に軌道が見えないレベルだし、明らかに熟練した技術で相手を圧倒している。

戦いというより、一方的な処刑だ。


その時、盗賊たちの中心で爆発が起きた。

一体何が起きたのか――視線を向けると、そこには軽装の鎧を纏い、サーベルを構えた女の姿があった。


「今よ!この魔法で陣形が崩れた!攻め込んで!」


えっ、今……魔法って言ったか?

あれが……魔法……?

あの威力で……!?

そんなのアリかよ。反則だろ。

こんなの相手に勝てるわけがない。


次の瞬間、その女がこっちを見た。


うそ……バレた!?

こんなに距離があるし、物音も立ててないのに!?


「木陰に潜んでるわ!あの蛮族、挟撃しようとしてる!」


……いやいやいや、俺が?

違うって!俺、そっちの味方じゃないから!


「キウイ司令官、あの蛮族は私が仕留めます!ご安心を、私が必ず首を取ってまいります!」


隣にいた騎士が叫んだ。

長い髪を一つに束ね、浅い顎髭をたくわえた男だった。

俺を睨みつけ、殺気満々で突進してくる。


うわっ、マジで来た!


慌てて背を向けて全力で走る。


動きと逃げには自信あるんだよ!舐めんなよ!


後ろを振り返ると、あっという間に距離が詰まっていた。


やばっ……!

とっさに頭上の枝を掴んで木に飛び乗る。

ここからはパルクールの勝負だ!


地形には恵まれてる。足場も豊富だ。


だがあの騎士、しつこい。

完全に俺の動きについてきてる。

今は下にいるが、木がなかったら確実に追いつかれてた。


その時、騎士が叫ぶ。


「この腰抜け野郎!男としての誇りはないのか!?逃げてばっかいないで戦えッ!!

……無視か?ならば受けてみろ、『レンジ・ディバイダー』ッ!!」


最後の言葉に、俺の背筋が凍った。

彼が叫んだ瞬間、剣が淡く光り、そのまま俺に向かって斬撃を放つ。

軌跡が白く光りながら伸び、一直線に飛んでくる。


なんだよそれ!?

この距離で……届くのかよ!?


嫌な予感がして、前進をやめた。

次の瞬間、白い斬撃が俺の目の前を通過する。


もし止まってなかったら――

胴体が真っ二つだったかもしれない。


だが、急停止したことでバランスを崩し、俺は木の上から落下する。


「くっそ!!」


尻餅をつき、地面に叩きつけられる。

痛みに呻きながら周囲を見ると、騎士がすぐ近くに迫っていた。


反射的に後ろへ跳び下がり、奴の剣が空を切る。


なんとか立ち直り、ナイフを左手に、メリケンサックを右手に持ち構える。


睨み返す――もう逃げられない。


あいつの部隊からはかなり離れた。

ワンチャン、一対一なら勝てるかも……?


戦うと決めた俺を見て、騎士は嬉しそうに構えを取った。


「ようやく戦う気になったか!よかろう!地獄へ送ってやるッ!!」

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