ショート

@seyama

TYPE:WRITER

むかしむかし、チンパンジーたちにタイプライター打たせた。

そして、誰かが言った。


「無限に打たせておけば、いつか素晴らしい文を生み出せる」




そんな夢みたいな話があった。



でも──

いまでは、何千の物語、何億の本を読んだタイプライターが書くべきことを教えてくれる。

そうして人間が書いている。

手書きの文字が人の心を動かすから。


僕もその一人。

“タイプ適合者”として選ばれた。

毎日、書いている。

機械に教わった通りに。

悲しさも、愛しさも、ぜんぶ「正しい書き方」で。


タイプライターは言った。


「あなたの文は完璧です。感動の形、言葉の重さ、全部そろっています。

適合率、100%。あなたが初めてです」




僕はうれしくなって、

ゆっくりと、最後の。をつけた。


そうしてできあがったのが──


「バラは名前が無くとも、その美しさは変わらない。」




それは、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のセリフだった。


僕は、それを自分の手で書いた。

でもそれは、とっくに誰かが書いたものだった。


評価は、最高だった。



「あなたの言葉ではありません。でも、理想の言葉でした」



僕は、しばらく黙って、それを見ていた。

そして、意味のわからないその言葉を読んで、すこしだけ泣いた。

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