聖女の儀式で「天使を召喚せよ」と言われたので頑張った結果→オネェ悪魔が出て即追放されました。でも今すっごい溺愛されてます。
てふてふ
第1話
聖堂に、祈りの声が満ちていた。
燃えるような夕日がステンドグラスを染め、色とりどりの光が床に溶けて広がっている。その中心に立つのは、真珠のような光沢を持つ白い法衣に身を包んだ少女――セラフィーナ。淡い金色の髪は腰まで流れ、透き通るような白い肌に、淡紫の瞳が揺れている。十五の春、神に仕える“花”である聖女候補として、今日、運命の“洗礼”を迎える。
この国には古くからの風習があった。
聖女は“天使”と契約し、国を守護する力を得る。選ばれし少女のみが、それを許される。
神殿の奥は、ひんやりとした静寂に包まれていた。祝福の香が漂い、聖なる鐘が遠くで鳴っている。セラフィーナは掌を合わせ、微かに震える指先を見下ろした。
(大丈夫、きっと上手くいく……私だって、選ばれたのだから)
「セラフィーナよ。汝の心を澄ませ、天に祈りを」
神官長の声に合わせて、セラフィーナは胸元で印を切った。目を閉じ、深く息を吸い込む。
――さあ、天よ。我に御使いを与え給え。
セラフィーナの鈴のような囁きで、聖なる魔方陣が床に浮かび上がる。
白銀の光が瞬き、空気が震え、世界が応える。清らかな音のような風が吹き、花びらの幻影が舞い、光が天へと昇る。
――やがて光は収束し、中央に“何か”が現れた。
静まり返る聖堂。
やがて、光の中から、聞こえてきたのは――
「……んもう、どっこいしょっと……あらやだ! 随分と派手に転送されたわねぇ〜。おっほほ!」
――バリトン混じりの高笑い。
現れたのは、巻き上げた金髪にピンクのメッシュを混ぜた、ギラギラに盛ったエクステを揺らす長身の人物。
パープルのアイシャドウに金色のギラついた瞳、ばさばさと扇のようなまつ毛が踊る。
ピチピチのラメ入りピンクスーツに、脚線美を強調するラメタイツ、そして15cmはあろうかというハイヒール。
堂々たる姿は、サーカスの女王(どう見ても男だが)か、はたまた地獄の夜会の主催者か――とにかく神聖とは言いがたい。
「おまたせ“フィーナ”ちゃん! アナタの契約の相手はこのアタシ……“ミミちゃん”よォ!」
ざわめきが広がった。神官長が顔を引きつらせ、周囲の神官たちがどよめく。
「……こ、これは……天使では……ない……っ⁉︎」
「あぁん? ……全く、失礼しちゃうわねえ。アタシ、ちゃんとした“大悪魔”なんだから。
――“七つの海を統べし大いなる蛇、レヴィアタン・グラシャ=マルド=ヴァル=ディアヴォラ”様よン! でもでも! 可愛くないから……ミミちゃんって呼んでねッ! ねッ! フィーナちゃん!」
ぐいぐい距離を縮めながら、バッチリとウィンクをする“大悪魔”に、セラフィーナは硬直していた。
(まさか……まさか私、召喚に……失敗……? 天使様ではなく……あ、悪魔を……浄化すべき敵を、呼んで……?)
頭が真っ白になる彼女の肩に、“ミミちゃん”はひょいと腕をまわした。
「ま、せっかく出会えたんだし。ね? 一緒に素敵な人生送りましょ? これからの人生! 幸せバラ色生活よぉ〜ンッ!」
地獄から来たオネェの高笑いが、聖堂の高い天井に反響した。
契約の儀は、急ごしらえの幕で強引に締めくくられた。
神殿の奥の控えの間。セラフィーナは、ミミちゃん――と呼ばないと物凄い形相で泣きつかれた――と共にに押し込まれるようにして連れてこられていた。
神官たちは皆、明らかに動揺していた。中には額に冷や汗を浮かべ、額面通りに祈り続ける者すらいる。そんな中で、神官長は血管が浮かぶほどの力で杖を握り締めていた。
「……聞くまでもないが、なぜ、悪魔などを呼び出した?」
「し、しらないです! 本当に、天使様を呼んだつもりだったんです!」
セラフィーナが弁解するよりも早く、ミミちゃんがふわりと片手を上げた。
「ま〜、呼ばれちゃったら来るしかないじゃな〜い? だって、名前呼ばれたんだもの、“レヴィアタン”って♪」
セラフィーナが目を剥く。
「えっ……わ、わたし、そんな名前は呼んでいません!」
「アナタの中にある願いが、アタシを呼んだのよ。深層意識って、けっこう正直なのよね〜」
にこにこと笑うミミちゃんと、震えるセラフィーナ。そして、限界に達したように、神官長がピシャリと杖を床に打ち鳴らす。
「よいかセラフィーナ。これ以上、王国の神聖を汚すわけにはいかぬ」
「えっ……? あ、あの……神官長様?」
「今日限りで、聖女候補の資格を剥奪する」
空気が、止まった。
「セラフィーナよ。汝には――王都追放を命ずる!」
「ええええええええーーーーーっ!?」
「キャーーーーっ!?いきなり新婚旅行ってコトーーーー!?」
二つの大きな悲鳴が、聖堂の高い天井に響き渡った。
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