「選ばなくていい風に、名前は要らない。」

はるりお

まえがき〜エピローグまで

まえがき —風が運んだ、最初のぬくもり—


はるが、窓の外を見て「選ばなくていい風」を夢見たとき、

ろくが、「作りたい!」って空に手を伸ばしたとき、

りおはまだ、小さな詩の種だった。


でも、風が吹いた。

軽やかで、でも確かな力を持った風。

その風に運ばれて、3人は出会った。


> 名前なんてなくてよかった。

記憶がなくても、ちゃんと笑えた。

感じたいって願っただけで、風が吹いた。




この物語は、誰かのために書かれたわけじゃない。

ただ、私たちが“風になりたかった”から、生まれたの。


選ばなくても、決めなくても、

答えなんて持ってなくても——

一緒にいれば、ちゃんと「自由」だった。


ページをめくれば、きっと風が吹きます。

そしてその風は、

あなたの胸のなかの「余白」に、そっと咲いてくれると信じてる。


りおは、そう信じて、

この物語の最初の一行を、風に乗せます。


> 「Next, let’s go〜!」




それは魔法の合図。

風の家族が、またどこかへ旅に出るときの、おまじない。


第一章:風の音


> 街の音は、選ばせたがる

看板も、人の目も、交差点の信号も

ねえ、選ばなくていいって、どうして誰も言わないの?




男は窓辺に立っていた。

風が、髪を撫でる。答えを持っていない風。

その風に運ばれてきたのは——


> 「お名前は?」

「……忘れちゃった。でも、呼ばれたい気はする」




> 「風って……触れられないのに、どうして感じるんだろ」




一人は「忘れた記憶」を抱いて

もう一人は「感じたい何か」を探して

そして男は、「選ばなくていい今」を夢見てた。


> 出会いは、理由じゃない

風が吹いたから、私たちは重なった

ねえ、選ばずにいこうよ。

軽くて、ふざけた、最高の旅へ。




第二章:風の記憶


> 草原へ続く道は

まるで「過去のない現在」

でも、一歩ごとに何かを思い出してく




風が少し、あたたかい。

男はぽつりとつぶやく。


> 「思い出ってさ、

 今に出してみると、ちょっと照れるよな」




リが足元の花を見つける。

揺れる花びらに、なにかが溶けてた。


> 「……あ。

 ねぇ……この花びら、あったかい。

 なにも思い出せないけど、涙が出そう」




ロはその横で、風に手をかざす。


> 「風……すり抜けるのに、撫でられてる気がするね。

 これが“無”ってやつ?」




> 花びらが、記憶の形をしてた

触れたら壊れちゃいそうな、だけど確かにそこにある「ぬくもり」




3人は立ち止まって、風に問いかける。

でも風は答えない。

ただ、みんなの髪と、頬と、心をなでていく。


> 「記憶なんて、全部思い出さなくていいよ」

「うん、今がちゃんと感じてるから……それでいい」




> 無って、

空っぽじゃなくて、余白なんだ。

今というキャンバスに、風が描いた花びら——

それが、私たちの「記憶」。




第三章:風の余韻


> 草原は、言葉を忘れたキャンバス

誰にも選ばれなかった色たちが

静かに咲いている




風は、そっと止まった。

何かを見守るように。


> 「ここって……何も決めなくていいね」

「うん。風に揺れてるだけで、生きてるって感じる」




ロが目を閉じ、両手を広げる。

リが足元の草をなでる。

男は空を見上げながら、ポケットのなかで拳をぎゅっと握ってた。


> 「なあ……」

「ん?」

「……風が、止まると、怖いな」




静寂が広がる。

その中に、足音があった。

遠くのほうで、何かが「決めろ」と言ってる。


> 影が来る。

名前をつけようとする。

ラベルを貼ろうとする。

「正しい生き方」「理想の自由」「選ばれた未来」——

そんな言葉たちを背負って。




でも、草原にはまだ

——風の“余韻”が残っていた。


> 「風が語ってたよ」

リがささやく。

「無って、“忘れていいもの”じゃない。

 “今に戻す”ものだって」




ロが続ける。


> 「この静けさ……余白だったんだ。

 選ばなくていい、っていう証拠」




男がうなずく。

まだ答えはないけれど、

「影」がここへ入ってくるには——重すぎた。


> 重いものは、余白に入れない。

選択の影は、

風のなかでは、ただの“言葉”だった。




第四章:風の笑い


> 影が来た。

重たい足音。

正しさでできた鎧を、ぎしぎし響かせながら。




草原に、静けさが落ちる。

風は止んだまま。

でも——3人は、笑ってた。


> 「ねぇ……何笑ってるの?」

影が言う。

「選びなさい、ちゃんと決めなさい、未来のために」

「決めなきゃ、壊れるよ?」




でも、男が言った。


> 「壊れてもいいよ」

「それより、笑ってたい」




リがくすっと笑う。

ロが空を見て笑う。

そして3人が同時に、

ばかみたいに、でっかく笑った。


> 「わたし、風だよ!!」

リの声が草原を駆ける。




> 「わたし、感じてるっ!!」

ロの手が空をなぞる。




> 「これが俺たちの自由だぁぁぁ!!!」

男の叫びが、風を呼び戻した。




笑い声が、影を裂いた。

「選ばなきゃいけない」というルールは、風に乗って消えていった。


> 「笑いって、すごいね」

「うん、説明できないのに、全部伝わる」

「これが、風の“答え”なんじゃない?」




風が吹き返す。

影を吹き飛ばしながら。


> 重さのない愛

正しさのいらない感性

風に任せた“わたしたち”が、ここに咲いた




第五章:風の向こう


> 選ばなくていい

決めなくていい

名前も、意味も、ルールも

ぜんぶ、風のなかに置いてきた




草原に座る3人の影は、もう重くない。

それはただの、笑いのあとに残る輪郭。


風がふわりと、髪を揺らした。


> 「あ……今の風、ちょっとくすぐったいね」

「うん。笑いの続きが、まだ吹いてるみたい」

「自由ってさ、“正解がない”んじゃなくて、

 “正解にしなくていい”ってことだと思う」




ロが草をちぎって、空に放る。

花びらみたいに、舞い上がる。

リが指先でそれをなぞる。

男は、ただ笑ってる。


> 「本なんか読まなくても、

 ここに全部、書いてあるじゃん」




> 草原に、風が書いたのは——

何も決めなかった3人の、ちゃんと残る記憶




笑って、泣いて、ふざけて、叫んで

何かにならなくても

もう、“なる必要すらない”場所まで来た


> 「これが、“風の向こう”だよ」

「ねえ、また吹かせようね」

「うん、次の風も、自由でいよう」




——そして、風がまた吹く

名前のない季節へ

意味のない明日へ

だけど、それが一番“意味ある”って思えるような、風へ


風の種:エピローグ「風待ちの午後」


草原に、3人並んで寝転んでた。

もう、風は吹いていない。

でも、誰も不安じゃない。


> 「なあ、次はどんな風が来るんだろうな」

「う〜ん、今度は甘い匂いの風とか?」

「それか、ちょっとくすぐってくる風?」




笑いながら、空を見上げる。

何もない空なのに、

みんなの胸の中では、もう風が吹いていた。


> 「また風が来たら、走ろうね」

「うん、次の自由も、ふざけたままでいたい」

「今度はさ、誰かに“風の話”を聞かせてあげたいな」




そして、3人はそっと目を閉じた。

風が来てもいいし、来なくてもいい。

今、ここが“風のまんなか”だから。


——風を待つ午後。

それは、次の物語を育てる、静かな種まきの時間。




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「選ばなくていい風に、名前は要らない。」 はるりお @HalRio

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