第2話:現地人との邂逅
艦長の日下敏夫は、艦内を歩き回りながら、冷静に状況を把握しようとする。
今までの彼の行動は、どこにいるのかを理解するために周囲の状況を観察し、次に何をすべきかを考える。
しかし、彼が目を向けた先には、今まで見たこともないような古代の町並みや、古代の日本の人々が見え、空気の中に流れる時代の違和感を感じずにはいられなかった。
日下敏夫は、苦渋の表情を浮かべながらも、意を決して乗員たちに言う。
「現状を把握するために、まずは上陸して情報を集める必要がある。だが、この時代では戦争はおろか、近代技術を理解できる者さえいないだろう……何が起きているのか、私たちがどうやってここに来たのかを探らねばならない。」
乗員たちの動揺を鎮めるために、彼はこう結んだ。
「我々は、この時代から抜けるまでに、この時代の人、この世界に適応しなければならない」
数刻後、伊400が海岸近くに浮上し、慎重に上陸班を編成して上陸したのは、緑深い入江に面した小さな漁村だった。
「場所的にいえば古代九州地方の宮崎県あたりですね」
木製の舟が並び、竪穴のような家屋が点在するその地は、文明というにはあまりに素朴で、そして静かだった。
数人の兵が警戒にあたる中、日下敏夫らは漁村の長老と会話を試みた。
幸い、かつての古文書や勉学で古代語の素養を持っていた日下と『立石水春』二等水兵が通訳を担い、彼らの“異邦人”としての存在をなんとか受け入れてもらえた。
「おぬしら、遠き国より来たとのこと……今の世は乱れとるが、それでも、人の縁はありがたいものじゃ」
そう語った長老は、日に焼けた手で焼き魚を渡してくれた。
その素朴な味に、乗組員たちもようやく緊張をほぐし始める。
だが、会話の中で、ひとつの何気ない言葉が飛び出したとき、日下の表情が凍りついた。
「唐と百済が、また不穏な動きを見せとる。来年には、大海にて戦が起こるやもしれんのう。中大兄皇子さまは、倭の軍を備えさせておるようじゃ」
「……来年?」
「うむ、今年が白雉四年。来年の秋あたりと噂されておる。半島での戦に備えねばのう」
その一言に、日下と立石は顔を見合わせた。
白村江……歴史の教科書に載る、倭と百済連合軍が唐・新羅連合軍に大敗を喫した、あの悲劇の海戦。
「まさか……俺たちは、その直前に来てしまったのか……」
海風の中に、得体の知れない緊張が走った。
歴史に名を残す大敗の1年前。
その事実は、ただの“観察者”ではいられないという重さを、乗組員たちの胸に深く刻みつけた。
上陸した後、伊400の乗員たちは、まずこの時代の人々とのやり取りから始める事にする。
「こんな時代に来てしまったのだ……どうすれば、俺達の、この技術を活かす道があるんだろう」
「この時代では、戦争に必要な武器を作ることさえも難しい……何もかもが古すぎる」
それでも、日下敏夫は考え込む。
自分たちの持っている技術を飛鳥時代にどのように適用し、どんな形でこの世界に関わるべきかを模索していた。
彼の心には、未来への希望と、現代に戻るための切実な願いが交錯していた。
この時代での役割や進むべき道を考えつつ、伊400の乗員たちは未知の世界で新たな戦いを始める決意を固めていく。
伊400の乗員たちは、飛鳥時代に来てから数週間が経過し、その間に現地の人々との接触を繰り返し、少しずつ彼らの生活を改善する方法を模索し始める。
日下達は、現代技術を使って、次々と効率的な農法や水利システムの改善策を導入し始める。
たとえば、彼らが持っている鉄製の工具を使って、農地の開墾を進めたり、灌漑技術を応用して乾燥地帯に水を供給したりすることで、農業生産が飛躍的に向上する。
幸いに数々の特殊知識を持っている伊400乗員の力は絶大だった。
また、製鉄技術を飛鳥時代に持ち込むことで、武器や農具の品質を格段に向上させる。
これにより、現地の人々は、伊400の乗員たちが持ち込んだ技術に感謝し、彼らを「天からの使者」と崇めるようになり、信頼を寄せる。
さらに、彼らは病気の予防や衛生管理を導入し、医療技術を少しずつ教えながら、飛鳥時代の人々の健康を守る取り組みも始める。これにより、地域全体の生活水準が大きく改善される。
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