「並行世界異動潜水艦伊四〇〇、白村江へ! 時を越えた黒き龍」

@vizantin1453

第1話:飛鳥時代へ

 数々の並行世界の日本を救ってきた熱核融合炉搭載潜水艦伊400、そしてその艦を率いている艦長『日下敏夫』少将以下の乗員は先日も滅亡の危機にあった日本を救ってその疲れを癒すために高天原要塞へ向かっていた。


 その時だった。

 艦内に低く、重く唸るような異音が響いた。

「異常電磁波、感知!」

「各種機器が……異常を続けています!」


 計器が狂い、方位磁針がぐるぐると回転を続ける。

 通信機からはノイズ混じりの不可解な音声が鳴り響く。

 同時に、艦体全体がまるで巨大な渦に呑まれるかのように、異常な圧力と光に包まれた。


 視界が白く染まったその刹那――

 艦内の全照明が消え、代わりに青白い閃光が艦内を走る。


「これは…何だ!?  空間が、歪んでいる…! 従来の並行世界への異動時ではないぞ?」


 艦外カメラには、空間の裂け目のようなものが映し出されていた。

 まるで鏡のように割れた海面。

 その中心からは、不気味な光が螺旋を描き、伊400を呑み込んでいく。


「艦長!  重力場が……異常反転しました!」

 轟音・振動……そして、沈黙。


 次に彼らが目を覚ました時、計器の数値は異常を示していた。

 現在位置、時刻、年月日……

 すべてが一致しない。

 過去全てにおいて異動した時点で上記の項目が出てくるが今回のみは一切、反応しない。


「こいつは通常の次元並行異動ではないな、想定外の何かが起こったか」

 日下がよろよろと起き上がると各艦内から物理的な故障等は一切ないが最新計器類が全く反応しない事を報告してくる。


「……ということは、今の伊400は大東亜戦争時の性能と同じことか」

 勿論、装甲等や限界潜水深度は変わらないがCICシステムがすべて使えない状態であった。


「艦長!! ちょっとこれを見てください、偵察ドローンからこんな風景が送られてきました!」


 ドローンから送られてきた風景の周囲に広がるのは、現代とは程遠い、緑に包まれた山並みと未開の海。


 やがてドローンから引き続き送られてきたのは、帆船すらない小舟と古代の衣装をまとう人々だった。


 艦長『日下敏夫」少将は呟いた。

「……ここは、どこだ? いや、いつの時代だ…?」


「艦長、ドローンを高高度まで上げて全体の地形を確認しましょう」

 先任将校『富下貝蔵』大佐が具申する。


「そうだな、ドローンを高高度まで上げろ!」

 ドローンが高高度まで行き、下面に見える画像を送ってくる。


「な……! この地形は……日本に間違いないが全く様相が違う」

 その風景は、大阪湾がなく大きな湖があり、関東平野の殆どが沼地であった。


「艦長、この風景は……飛鳥時代の地形かと……」

 航海班所属『立石水春』二等水兵が口を開く。


 彼は、歴史通マニアで特に古代からの日本地形に興味を以て任務の傍ら、研究している程の博識であった。


 艦長の日下は、最初は信じられないと感じる。

 彼は艦内に集まった乗員たちを見回すと喋る。

「これは夢か、何かの幻か?」


 艦の技術員や兵士たちも一様に、計器の異常や通信機器の不具合を確認するが、  どこを調べても自分たちがいる場所が一体どこなのか、分からない。


「この風景は……間違いなく飛鳥時代の古代日本だ」

 立石が呟く。

 日下は窓から外を見つめる。

 大海原に浮かぶような風景ではなく、むしろ広大な山々に囲まれた平地が広がっているのを見て、彼はようやくそれが現実だと認識し始める。




 

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