第弐話 もしも別世界に繋がったら

 もしも別世界に繋がることが出来れば、君は何をするのだろうか?

それは今いる世界ではなく、そしてパラレルワールドでもなく、全くの別次元へ飛ぶことが出来れば……。

空を飛ぶことが出来るのだろうか?

それとも、全知全能の力を手にしてこれからの人生を謳歌するのだろうか?

そう、未来は誰にもわからない。そればかりか本人ですらもわからない。

 これは、谷崎竜也が本に吸い込まれ別世界へと飛ばされたお話なのである。


 目の前が暗い。そればかりか何も見ることができない。

谷崎は今何が起こっているのか理解することが出来ない状況にいるのだと、理解するにはまだ時間がかかるだろう。


「ん……ここはどこ?てか、何も見えないじゃん!?え、僕本屋にいて……それで……あれ?僕はどうしてここにいるんだ?」

――ようやく目を覚ましたか少年。かれこれ2週間近く寝ておったぞ。寝すぎじゃないのか?

「寝る子は育つというじゃない?それと一緒だよ。ってなんで会話出来てるの!?目の前にいるとか?」

――そんなわけないだろ。君は小説が好きで読み漁ってた中に私と出会った。そして本の中の世界に吸い込まれた。ここまでは理解できるだろう?

「ごめん。僕そういう堅苦しいの苦手なんだよね。こう、なんていうかさ。ね?分かるよね?」

――私にはさっぱりわからない内容だな。それで君はこの世界の王となっている。何かを実現したいという思いがあるのではないか?

「そんな急に言われても正直そのなんていうかさ?実感湧かないじゃん。」

――嘘をつけ噓を!前の話でめちゃくちゃはっきり言ってたじゃないか!「僕は……世界がなくなったとき迷いなく新しい世界を作ると思う。場所、仲間、大事な人、そんなの単なる道具に過ぎない。それなら僕が王になり、利用し世界を再構築したらいいんだ!」とか言ってたのは嘘だったのか!?

「なんかそんなこと言ってたような気が……しないわけでもないな。とりあえず眠いからベッドほしいんだけど……え?」


谷崎がそう思った途端に目の前に何かが出てきた。しかし、明かりがなく何も見ることが出来ない。

ライトなどがあればもっといいのだが、結局これは何が出てきたのだ?

そう考えるうちに、また誰かからか話かけられる。


――この世界の王よ、ようやく力を使ってくれたようだな。

「そもそも僕は王になれる資格なんて持ってないはずだよ?ようやく力って何のこと言ってるの?」

――今したことじゃないか?

「?え、何のこと言ってるの?」

――え……王よ、本気で言ってるのか?


谷崎自身も困惑する。いきなり力を使用したと言われてもまず何も見えてない以上、何が起きてるのかすらわからないといった話だ。

そこに何かあるのか?目の前に刃物があるのではないか?

そのような思考を張り巡らせながら、谷崎は困惑する。

ましてやこの部屋が明るくなってるのであれば、まず見ることが出来るはずだ。しかし何も見ることが出来ていない。


――王よ……さっきから何を言っているのかね?ここは王の理想の世界となり、思い描いたものが現実となる世界じゃないか?

「だーかーら、そう言われても何も見えないんだから意味ないでしょうがぁぁ!てか、マジで何も見えないし王とか意味わかんないしここ何処なんだ?」

――さっきも言ったが王の理想の世界。つまりは幻想郷に近しいものだ。

「そうなんだ。興味ないから1回家に帰らせてくれる?真面目に制服過ぎて辛いんだ……」

――1度この世界に入ってしまったものは二度と出ることが出来ない。そういう誓約なのだ。

「誓約とか意味わからないし、それ大丈夫なの?」

――何がだ?

「さっきから聞いてると王とか言ってるけど、僕が王にいつなると言ったの?そもそも勝手に決めてるよね?」

――王よ……さっきから話がグルグル回転してるぞ?本当にこやつに王を任せても大丈夫なのか?

「とりあえず僕は1回家に帰りたいの。それわかる?」

――王の世界は既にこの世界だ。何か思いつくものを想像してみるがいい。

「何言ってるの?本当に、頭おかしくなってしまったのかな?」

――この餓鬼……。


そもそも、さっきから聞こえる王とか言ってる人は誰なんだ?と考えつつ、早く家に帰りたいと切に願う谷崎。

頭の中には、自分の大事な家が思い浮かぶ。

大きい一軒家、窓や扉もありいつも谷崎自身が生活を送っている家。

言うなれば実家みたいなものだ。

早く家に帰りたい、その一心で谷崎は思考の中に具体的な家の想像をしていた。


数分が経過したとき、急に目の前が明るくなった。

それだけではない。見るからに完璧に近しい想像していた家が目の前に現れたのだ。

これが現実か嘘か聞くまでもない。中に入れば分かる話だから。


「うわぁ……!?ちょ、目が!目が!!」

――どうした王よ?急に明るくなったからといって驚く必要はないではないか。

「ちょ、いいから黙ってろ!」

――はぁ……?とりあえず黙っておくぞ。

「それでいいよ!とりあえず目が本当に痛い!」


痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

目に稲妻が走るように光が刺さってきてとにかく痛い……。

これ失明しちゃったんじゃないか?え、本当に僕の目は大丈夫なのか!?


「くそっ!くそっ!目が痛すぎて開けたものじゃない!痛い痛い!」

――王よ……本当に大丈夫なのか?私は心配だぞ?

「うるさい!黙ってろ!」

――仕方ない。ここは王の幻想郷とさっき言ったな?王の思考の中で周囲が明るく今までの日常だと思い浮かべろ。そうすれば問題ないだろ。

「それよりも痛すぎて何も考えること出来ないじゃないか!馬鹿じゃないの!」

――いいからやれ。王。拒否権はない。

「くそっ!くそっ!わかったよ!やればいいんだろ!やってやるよ!」

――じゃないと失明するぞ。


急に怖いことを言い始める何者でもない人物。実在するのかしないのかさえも怪しい人。

しかしながら、今はそんなこと言ってられない。とにかく目が痛いということを何とかしない限りどうすることも出来ないのだから。


確か、脳内にいつもの日常を思い浮かべるんだっけな……。

いつもの日常……日常……何をしてた?

どうでもいい日常を送り、家に帰り、本を読み、ご飯を食べて一日が終わり、次の日には学校。

それをひたすら繰り返すだけの日常……。

つまらない。楽しくもない。何が日常だ?僕は何を想って今まで生きていたんだ?

分からない……でも……。


「幸せに……なりたい。」

――ん?どうした王?

「僕はつまらない日常に飽き飽きしてたんだ。どうでもいい日常にどうでもいい人生。こんなの僕自身の人生でもない。だから変わりたいんだ。」

――おいおい、王よ?急にどうしたんだ?狂ったのか?

「理想郷、幻想郷、俺の望む未来。それがこれだよ。ははは、ようやく理解したよ。これが俺自身が思う未来なんだよ。日常なんだよ。」

――ついに壊れたか?本当に大丈夫か王?

「好きも嫌いも見失ってもいい。叶えたい夢を叶えてもいい。それが俺の理想の世界だ!そうだろう?君。」

――君?ああ、私のことか。まぁ、王の言うことは絶対だからな。それがどうしたというのだ?

「だからなぁ?俺の理想の世界を作るんだよ!クリエイト!ワールド生成!」

――っ!?なぜそれを知っているというのだ!?王よ、一体何者なんだ!?


谷崎竜也は自身の中に2つの人格が宿っている。俗にいう二重人格と言われるものだ。

だが、それは甘いものでもない。自分で支配出来ない限りは飲み込まれる危険性も存在する。

主人格を閉じ込めいつもは別人格の存在で生き続けてきた谷崎竜也。

その枷が外れた今、覚醒したといってもおかしくはない。

元の主人格が最も好むもの……「自分で作る世界創造」


その言葉を発した途端、世界は点滅を始める。無から有を生み出すように空間も何もない場所から建造物を作り始めるのだ。

昔、混沌に満ちた世界が存在していた。そこには何も存在しておらず、ただの暗闇だけであった。

しかし、1つの生物が集合し、やがて物質を形成し、石が出来た。それだけでは収まらずいくつもの集合体により、惑星が出来、水が生まれ、生物が生まれた。

そう、その全てを理解してる人間が谷崎竜也本人の主人格なのだから。


世界の創生までわずか数秒。この世界は谷崎竜也の好きな世界へと生まれ変わるのだ。


君は今いる世界に憎しみを覚えているか?

君は今いる世界に楽しみがあると思っているか?

もしもこの世界が別世界へと繋がったら何を想うのか?


これはひょんなことから別世界へと繋がった谷崎竜也の物語である。もしも別世界に繋がったら……。

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もしも世界がなくなれば、君は何を想うのだろう @kmitati

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