3話

 ある日のこと、大臣の子は、王子に馬術で勝負を挑みました。


「どうだい。どちらが速く走らせることができるか、勝負しようじゃないか」


 この大臣の子は、勉強も剣術も、王子と同じくらいできましたが、いつも王子にあと一歩のところで叶いません。彼は、いつもそれが面白くありませんでした。

 王子も、負けじと受けて立ちます。

その日も、大臣の子は、王子の馬を追い越すことができませんでした。


大臣の子は、くやしまぎれに王子に言いました。


「ふん、君には人ならざるものの血が入っているから、馬も味方するのかな。」


「人ならざるもの?何のことだい?」


王子には、大臣の子の言っている意味がわかりません。


「みんなそう言っているじゃないか。聞いていないのか?君は、きっと人魚から生まれた子なんだよ。」


そんなでたらめを、大臣の子は、いつの間にか作っていました。


王子は、眉をひそめて反論しました。


「まさか。どうやって人魚が人を生むのだ。」


大臣の子も、負けていません。


「それが、できたのさ。君のお父様が生きていた頃、人の形に化けて、城にもぐり込んでいたんだってさ。そして君を生んだんだ。何も聞いていないのかい?」


ふしぎと、王子の胸はどきんとしました。

しかし、すぐに持ちこたえて、顔を上げました。


「ばかな。僕の両親を侮辱するのか。」


そうして毅然として一歩、大臣の子の前に出ました。


「僕の父も母も、ぼくが生まれる前後に亡くなった、と聞いている。

墓だってある。当時の二人を知る者だって、まだこの城にたくさんいるのだ。

そんな悪口は、よしてくれ」


しかし、大臣の子は、意地の悪い笑みをやめません。


「へえ、そんな話、本当に信用できるのかい?君より僕のほうが、下々のうわさ話には通じているんだ。

 僕の耳に入ってきた話だと、それは表向きで、ほんとうは、人魚が君を生んで、まずい関係がばれたから二人そろって海に飛び込んだ、とか、あるいはふたりとも人魚に殺された、なんてうわさも聞いたぜ。

君の母と人魚が、君の父を取り合って、殺し合いになった、なんて話を信じている者もいる。何がほんとうか、わかりゃしない」


 王子は、強い声で、

「これ以上でたらめを言うと、承知しないぞ」と、大臣の子を制しました。


「やけに、ムキになるじゃないか、王子さま」

大臣の子はまだにやにや笑っていましたが、それ以上は何も言いませんでした。





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