殺意のペン~岡部警部シリーズ~
柿崎零華
第1話~事件編~
俺〈佐久間雄一〉は作家の先輩である〈大川武雄〉の別荘・書斎にて、一口のコーヒーを含みながら、ため息をした。
周りを見ると、大川が以前に受賞したトロフィーなどが棚の上に多く並んでおり、その金色が、窓の反射でかなり輝いている。
「なんだね。いきなり訪ねてきて」
大川がキッチンの方で、コーヒー豆を挽かせている。
「本当にあの件から降りるつもりなんですか?」
「またその件か。それはとっくに答えは出しているはずだ」
俺は推理作家で名をはせて来た。
ミステリー新人賞やミステリー総合大賞などで最優秀作品賞を受賞してからは、映画化やドラマ化などの話が来る日も少なくはない。
特にデビュー作「殺人トレイン」は未だにベストセラーを獲得しており、発売から二十年経った今でも読まれているのだ。
それはありがたい限りなのだが、俺には深い闇を抱えている。
その闇の当事者である大川にはとある仕事をしてもらわなければならないのだ。
その願いをしに、大川の別荘に訪れているのだ。
「何度言われても、例の件から降りるつもりだ」
「ですが、今更降りたところで、あなたが行ってきた事実は変わりませんよ」
「それでもいい」
そう言って対面の席に座り、持ってきたコーヒーカップをテーブルの上にそっと置いた。
「いいか。俺はお前に罪を償ってほしいんだ。八百長の件だってそう。本当はお前もしたくないだろ。よく考えてくれ」
「・・・」
俺は目を瞑りながらも考えた。
今まで多くの人間を裏切り、陥れて来たか。
ミステリー新人賞でデビュー作が受賞したときから、俺は負けたくなかったのだ。
その後の賞においては、必ず大川が審査員であるため、その力を多く借りて来たものだ。
作品レビューには多くの意見で〈何故これが賞を取ったのか分からない〉と書かれており、俺は痛感して分かっている。
本当は他の人間が受賞するべきだったのだが、俺は大川に金を払い、トロフィーを自分の物にしていたのだ。
全ては自分の力ではない。
そう感じながらも、目をゆっくりと開けてから
「それより、トロフィー見てもいいですか?」
「どうぞ」
俺は立ち上がり、棚にあるトロフィーをゆっくり見始めた。
その中に一つ〈〈葛飾有山〉生誕100周年記念トロフィー〉と書かれているトロフィーを見つけたため、尋ねてみると
「それはな。去年貰った記念のトロフィーだ。ミステリー作家の元祖ともいえる葛飾先生の名を汚さないように、毎日磨いているんだ」
「そうですか」
俺は手袋をはめて、そのトロフィーを手に取ってから、大川に向かい
「大川先生。今までありがとうございました。今日から俺は殺人者です」
そう言って大川の頭目掛けて振り下ろした。
そのまま大川はテーブルに向かい倒れ込んだ。
すぐに自分のコーヒーカップだけをキッチンにて持っていき、洗い始めた。
記念のトロフィーは捨てた方がいいい。
俺は大きなゴミ袋を探し出し、しばらくして見つけた後にトロフィーを入れて、外に停めてある自分の車のトランクに乗せた。
家に戻り、書斎の窓を大きく割った。
ここから強盗が侵入し、彼を殺害したことにしよう。
そう考えてから、すぐに偽装工作を済んでから、家を後にすることにした。
これで完全犯罪は完璧なはずだった。
あの女が来るまでは・・・
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