エピローグ
「雄隆くん。彩海ちゃんとは話ができた?」
日曜日の午前。
俺の部屋に彼女を招き、テーブルをはさんで向き合ってコーヒーを飲んでいた。
話題は昨日の河川敷のたき火のことだ。
あの日、彼女は本当に遅れてきた。
たき火の片付けが済んで撤収する頃に、彼女は見計らったかのようにやってきた。駆け寄ってきた彩海の頭を撫でると、俺のほうを見て声に出さずに口で伝えてきた。
『よかったね』
俺は深く頷いて、今度こそほっとできたのだった。
彼女に相談したのは正解だった。俺の力だけでは限界があって、彼女のサポートはかなり大きかった。
「たくさん話せたよ」
「よかった。彩海ちゃんは、今日は亡くなった彼にお線香を上げに行っているんだっけ」
「ああ。心もようやく落ち着いたのかもな」
「そうだね。……お兄ちゃんとしては肩の荷が下りた感じかな?」
「荷とは思っていないよ。彩海の支えになりたかった、それだけだ」
「格好いいね」
コーヒーを一口飲んだ後、彼女は困ったように眉を下げて、ふにゃっと笑った。
「それだけに私が関わってよかったのか、一段落した今も不安なんだ。力不足だったんじゃないか、的外れなことをしでかしてたらどうしようって」
「相変わらずだな」
「まあね。でもリビングはやっぱり寝づらかったよね」
申し訳ないとばかりに彼女はうつむいてしまう。
夜間につらい気持ちが高まった彩海が外に出るなどの自棄になる可能性を考えて、すぐに察知できるほうがいいのではないかと彼女は進言してくれたのだった。
結果として意味は成さなかったけれど、おかげで俺は安心材料を得ることができた。
「気にしてくれたことに感謝こそすれ、迷惑だったなんてぜんぜん思っていない。ほんとありがとな」
「うん。救われた気持ちだよ」
「それじゃ、彩海ちゃんが帰ってくる前に、私は退散するね」
「会っていけばいいのに」
「私がいたんじゃ、彩海ちゃんも言い出しづらいだろうから」
「なんのことだ」
「一つだけ言えることは、私は雄隆くんだけじゃなくて、彩海ちゃんの相談にもときどき乗っているということ」
思わせぶりなことを言い残して、彼女はスマホを一度確認してから席を立つと玄関へ向けて歩いていく。
「それじゃあ、また学校で。またね」
「ああ。ありがとう」
彼女が去って五分後に、彩海が帰ってきた。
リビングで椅子に腰かけてコーヒーの残りを飲む俺の前に、妙に息を切らして彩海が駆け寄ってきた。
「聞いてお兄ちゃん。祐吾に向けて、またラブレターを書くの。今度は燃やさないでわたしが大切にしまっておくつもり。始めの一文は前と同じで『好きです』にしたいな。……だからね、」
「お、おう……ずいぶんとテンション高いな」
「え、そう? なんだろ、早歩きで帰ってきたからかな」
すぐ目の前で彩海は深呼吸を繰り返す。
それから彩海は頬を真っ赤に染めて、目をそらしながらこう言うのだった。
「あの、す、すごく感謝してるから! それだけっ!」
わたしのラブレターが空を飛んだ日 さなこばと @kobato37
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