どこにでもいる。見つめている。

埼京

瞳が芽吹く花

特定の条件を満たした湖の周辺にだけ芽吹くと言われる、美しい花を発見した。

その花はまるで人間の瞳のようで、私は一目で心を奪われた。


「これは是非、家でも眺めていたい。何輪か摘んで帰ろうではないか。」


そう思い、茎を折ろうと花に触れた。

しかし、私はあることに気がついたのだ。


この花…ドクドクと脈を打っているではないか。

少し違和感。いや、恐怖を覚えたがとても貴重な花なのだ。

これしきの事、不思議ではないのかもしれない。


そして私は気にせず茎を折り、何輪か持ち帰った。


長らく経った今でも、この時のことをとても後悔している。


家に帰り、すぐさま花を生けようとしたのだが…


「なぜだ…?枯れている…」


湖から家までは二時間ほどで、その間も花を痛めないようにと慎重に扱ってきた。

それに‘枯れた‘というより‘朽ち果てた‘というようだ。

潤っていたはずの表面はガサガサとしていて、あれだけ美しかった色も失い、瞳のように丸い花弁も萎んでいた。


この異常な枯れ方に疑問を抱いた私は、翌日またあの湖に訪れた。


「まずは湖の水質を調べてみよう。」


そう思い、水中眼鏡を付け湖の中に顔を沈めた。

そこで私の目に飛び込んできたのは、数え切れないほどの死体の山…更に、どれも本来瞳があるはずの場所から血管のようにドクドクと脈を打つ茎が伸びていたのだ。


その中に一つだけ、瞳があるものを視界の端で捉えた。

しかし、私は決してそれを見ようと…違う、目を合わせようとしなかった。

今思えば、あれは本能が危険だと叫んでいたのかもしれない。


恐ろしくてたまらなくなった私は急いで逃げ帰った。


この日記を書いている今も、あの光景がまざまざと思い起こされて恐ろしくてたまらない。


私は水場に近づけなくなってしまったが、それでよかったとさえ感じる。

一生‘あれ‘と目が合わなくて済むのだから。

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