同調した双星は、約束の未来への軌跡を辿る
夜桜月乃
生まれ変わっても君を、もう一度好きになるよ
「あなたは余命一年です」なんて、突然言われたらみんなはどういう反応をするのだろう。そんなドストレートに言ってくる人なんてそうそう居ないだろうけど。ただ一つ、確かなことがあるとすれば。少なくとも僕は、疑問しか出てこなかった、ということだ。
中二の冬、僕は入院病棟の談話室で同い年の少女と出会った。今思えば、都合が良くて面白い話だと思う。
そして僕らは期限付きの恋をした。難病ものの主人公と同じように。余命一年の僕と余命零日の少女という、約束された未来の無い二人が。けれど僕らは、ずっと一緒だということを約束した。
彼女と出会った時、僕は丁度余命宣告をされた後だった。堂々巡りをする思考を冷やすために談話室で呆けていた僕に、彼女は話しかけて来たんだ。彼女は入退院を繰り返していて、同級生との関りがほとんどないらしかった。だから思い切って僕に話しかけた、そういうことらしい。
意気投合した僕らは、お互いの秘密を共有した。僕は余命宣告をされたこと、そして彼女は、いつ病状が悪化して死んでもおかしくない状況だと言うこと。彼女は冗談めかして、「もし私が死んでも、引きずらないでね」と言って来た。一瞬固まった僕だったけど、同じことを言ってやって、一緒に笑った。
僕らはエンディングノートというやつを書いてみることにした。彼女の提案によるもので、今後やりたいことや、やったことの記録、そして遺書的なものを書くということらしい。 僕はとりあえず、印象深かった出来事を纏めて、日記形式で書くことにした。この文章を書いている僕ですら知らない結末は、果たしてどうなっているのだろうか。
検査入院が終わって、僕は学校に復帰した。クラスメイトには多少心配されたけど、適当に受け流した。真実が必ずしも事実である必要はなくて、余命宣告なんてされてない僕という、事実とは異なる認識が彼らにとっての真実であればいい。事実を彼らが知る必要は無いし、言う気にもならない。
彼女も落ち着いた時には学校に登校することがあった。彼女が同じ学校というのは入院中に聞いていたけど、これまでは同学年ではあるけど休む方が多いから見かけることすらなかったらしい。休み時間に僕のクラスを覗きに来たときは目を疑った。当の本人は「来ちゃった」なんて言って笑っていたけど。
それから少しの間話していたら、友人には「君にも春が来たか」なんて嘆かれた。実際の季節も身体的状況も冬だけれど。
そして、中学三年生という人生における一つの節目的年がやってくる。僕にとってはもしかしたら最後の年になるかもしれない、そんな意味でも重要な年が始まった。そんな仰々しい書き方をしておいてだけど、別に何かが変わる訳でもないんだけどね。
症状という症状はこれまで特に無かったけど、やっぱりそんなに上手いこと行くはずもなく入院することになった。入院することになった部屋は大部屋、つまりは相部屋で、神様の粋な計らいなのか、彼女と同じ部屋だった。というかベッドが隣だった。僕はなんとなく、安心感を覚えた。彼女は「こんなことあるんだね」と困ったような笑みを浮かべていた。少し元気が無いように見えた。
元気が無いのは僕の勘違いではないらしく、少し弱気な発言が増えていた。けれど、僕も僕で不安感を拭うことはできなくて、彼女に上手く言葉を返すことができなかった。
彼女は「死にたくないな」と、唐突に言った。僕ら以外はみんな寝ていて、部屋の中は静かだった。僕は何も言えなかった。
「普通の生活というやつが出来ていたらどんなに良かっただろう。君とずっと、のんびりお話をするんだ。いや、こうやって普通じゃないからこそ君と出会えたのかな?」
「だとしたら、これも悪くないのかな」
「でも、期限付き。あ―……ずっと続いたらいいのにね。来世というやつがあるのなら、そこで一緒に生きたいね。ああそうだ、私は君のことが好きなんだよ。優しい君が」
「……僕も、来世があったら一緒に居たいな」
「こういうのはどうかな。生まれ変わっても君を、私はもう一度好きになるよ」
「はは。僕も、生まれ変わっても君を、僕はもう一度好きになるよ」
ここまで書いて、僕は彼女の方を見た。ここ最近ずっと寝ていた彼女が少しだけ目を開けて、僕を見て微笑んで、また目を瞑った。
そして僕も目を瞑る。
目を瞑る。
目を瞑る。
目を瞑る。
彼女との「普通」がそこにあると願って。
同調した双星は、約束の未来への軌跡を辿る 夜桜月乃 @tkn_yzkr
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