第19話「呪いは賞味期限つき!?アイスより溶けやすい運命」

「……期限、って、どういうことだってばよ……」


なぜかナルト口調でつぶやいた自分にツッコミを入れる気力もなく、沙織は昼下がりのベンチにへたりこんでいた。


《現在の数値:60/100》


この数値が、なんかもう、「人間としての体力ゲージ」みたいに思えてきた。


「限界って、こういう状態のことを言うんだな……」


全身が鉛のように重い。通勤だけでもHPが削られ、職場では神経をすり減らし、夜は善行に時間を費やす。


「家帰ってアニメ観て、アイス食って寝てたあの頃……もう一回やり直したい……」


ふと、視界の隅をなにかがぬるっと横切った。


「……あん?」


立ち上がろうとした瞬間、目の前にスルリと現れたのは——


「はいは〜い、元気〜? オーラちょっと濁ってるけど、まあ誤差ね誤差〜!」


また出た、この女。


「出たな、しゃらくせえ占い女!」


沙織は反射で構える。今日は突っ込む気力すらない。が、占い師はマイペースに話し出す。


「ちょっとちょっと〜。私、今日ね、すっごい予感がしてここ来たのよ。まさに“運命的再会”って感じ〜?」


「マジで神経に障るテンションしてるな、お前……」


「はっはっは! それ褒め言葉と受け取っておくわ〜」


「褒めてないわ!」



---


「で? 今回は何を言いに来たの。呪い解除方法でも教えてくれんの?」


「う〜ん、そこは“次回予告”くらいのノリで、今日はふわっとした話だけどいい?」


「よくないっつってんだろうがぁぁぁ!」


「まあまあまあ、こういうのはね、熟成させてなんぼだから。ワインみたいにね、ふふふ」


「呪いは醸すな!!」


今日もハトがビビって飛んだ。


占い師はというと、無視力99といった表情で言葉を続ける。


「それにしても、あなたがここまで頑張るとは思ってなかったわ〜。真面目すぎるのも考えものよ? もっとこう、力抜いてさ〜」


「命かかってるからね!? 気軽にカフェでマリトッツォ選ぶみたいなテンションで言うな!」


「そういうとこが真面目すぎるって話よ〜。マリトッツォは選べばいいじゃない、命もね?」


「命をマリトッツォに例えんなっ!!」



---


沙織がフルパワーでツッコミを入れる中、占い師は急にスッと真顔になる。


「……でもね」


そのトーンに、沙織は背筋を伸ばす。


「“終わり”は、あるのよ。この呪いにも。ほんのちょっと先にね」


「……っ!」


「ま、今日はアイス食べたい気分だからここまで!」


「はあああ!? いやそこが本題だろうがあああああああ!」


沙織が飛びかかろうとした瞬間、占い師はするっと身をひねって回避し、スタスタと歩き出す。


「じゃ、またね〜! 推しのライブ、当たるといいわね〜。あ、それとももう当たってたっけ〜?」


「おいっ!! まてっ! 期限ってなんだよ! どこまでなの!? 明日!? 来週!? 年度末!? 期末セール!?」


必死に叫ぶ沙織。だが、占い師は振り返らずに去っていく。


「……なにあの女……情報の出し惜しみが昭和の旅番組……」



---


ベンチにどさっと腰を落とす沙織。


(呪いに……期限?)


その言葉が頭から離れない。


いつか終わる、という希望。


でも、それが明日なのか、五年後なのか、明確には教えてもらえない。


「じらし方、上司の“あとで話ある”くらい怖いんだけど……」


《現在の数値:59/100》


体力は限界でも、心のどこかに灯った“終わり”の希望。


(……もうちょっとだけ、頑張ってみるか)


沙織は、そうぼそっとつぶやいた。


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