第13話「恋の芽生え?パラメーターに恋愛感情は反映されません」

「はい、これ今日のおやつ。コンビニ限定の塩キャラメルロール!」


「……ありがとう、佐々木くん。でもそんなの毎日買ってこなくていいのに」


沙織はオフィスの自席で、笑顔でロールケーキを受け取った。


「いやいや、僕の勝手な趣味なんで!気にしないでください!」


佐々木は爽やかに笑うが、その手元には“沙織好物メモ”なる謎の付箋がチラ見えしている。


「……(ま、いっか。甘いのは正義)」


沙織はロールケーキをもぐもぐしながら、自分のスマホを開いた。


《現在の数値:72/100》


「んー、安定の下降傾向……なんでロールケーキで幸せ感じたくらいで減るかなあ……」


「え、なんか言いました?」


「いや、こっちの話!」



---


「ねぇ沙織、今日のイベント行くんでしょ?」


休憩時間に話しかけてきたのは、同僚の裕美。


「あーうん、行ってくるよ。アイドル系じゃなくて、地元の音楽フェス的なやつだけど」


「まーた当選チケット? なんか最近ツイてるね〜」


「“不幸体質”だったのにね……善行って偉大」


(いや、ツイてると言ってもこの程度……!まだ《72/100》!)


そんなこんなで、仕事帰りに沙織はその「地元のイベント会場」へと足を運ぶ。



---


一方その頃、同じ会場の別ブロックでは、マネージャーと駿が物販ブースを巡っていた。


「今日のゲストステージ、急遽代役頼まれてね。30分だけだけど、トークステージだけだから気楽にやってきて」


「はーい。でも……この辺、なんか見覚えあるんですよね」


「イベントってどこも似たようなもんじゃん?」


駿はふと辺りを見回しながら、心の中でつぶやく。


(もしかして、“あの人”も、こういうイベントとか来てたりして……)


それぞれが、相手にまったく気づかないまま、同じ敷地の違う区画をすれ違う。



---


「は〜、人多いなぁ……善行ポイント探すどころじゃないよ、これは」


人混みにぐったりしながらも、沙織はふとSNSをチェックする。


> 『善行ガール目撃情報 in〇〇フェス!?』

『アイスを買ってあげてたらしい』

『現場にいたのに見逃した!!』




「え、なにこれ、誰……!?」


スマホに表示された自分そっくりの後ろ姿。


「ぎゃっ!? ストーキング!? いや、目撃者!?」


思わず自分の背中を確認するも、特に不審なものはない。が、


《現在の数値:71/100》


「また下がったああああ!? 喜んでないよ!? むしろ怖かったよ今の!!」


後方で、ふわっと香るロールケーキの匂い。振り返ると佐々木が、二個目の差し入れを掲げていた。


「さっきのと味違うやつです!」


「……あ、ありがとう」


(あの人……もしかして……いや、まさかね)


沙織は全く気づいていない。


佐々木が、彼女にだけ特別な気持ちを持ち始めていることに。



---


イベント終了後、駿は空を見上げてつぶやく。


「……どこにいるんだろう、善行ガール」


その頃沙織は、「“美女”」で検索しながら小さく嘆いていた。


「美女でトレンド入りする方法……善行以外で頼む……!」


《現在の数値:70/100》

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