連絡帳の記録
学生作家志望
4月
連絡帳 5月2日
ぼくのちいさいせかい
いつまでもどこまでも、同じ。
ぼくもおなじ、あの子もおなじ、みんな同じ。
ああでもでも、たまにおかしいことがあるんだ。みんな同じのせかいのはずなのに、どうしてか、ちがうっておもうことがある。
「ごめんなさい、私のミスで。次は必ず素早く対応を。」
「そうですか、はあ。」
がらすのあいだ、みどりのドアのむこうがわ。ぼくの、たんにんのせんせいがなきそうになってる。
4月にあたらしくやってきた先生で、なまえは前田せんせい。とってもやさしくて、あかるくて、ぼくのことも、みんなのことも、ずっとおなじくらい大すきでいてくれるせんせい。
「みんな同じ!みんなお互いにお互いを大好きでいること!それが、とーっても大事なんだよ!!」
せんせいの朝のことば。いつものことば。
でもどうして、みんなおなじなら、泣かなくたっていいのに。なんであんなに、かなしそうなの。
せんせいが、どうしてあんなにかなしそうにならなきゃいけないんだろう。
ぼくに、できること。
「さ、よ、なら!」
手を合わせて、タッチ。リズムに合わせて。さようなら。ばいばいって。さっきまでかなしかったせんせいが、ぼくらのまえではすごくたのしそうにわらってる。
さいごの、さようならまで、ずっと明るい。そろそろ、ぼくもお迎えが来るかな。
「パンダさんーパンダさーん。パンダさんの好きなモノって何かなあ?」
きょうは、ふしぎな森にすむパンダさんのクイズ。きのうはりんごさん。パンダはなにがすきなんだろう。
にらめっこをするみたいに、かんがえてる僕の近くにはいつもせんせいがいてくれた。
オリガミができないときも、お歌がうたえないときも。下をむいても、せんせいがぼくに前をむかせてくれる。かなしいとき、いつも、わらってくれるから。
じかん、そろそろお母さんがくる。お迎えがくる。せんせいに、ちゃんといわなきゃ。
ばいばいになっちゃうよりも前に。
「パンダさんは笹が好きなんだよー!」
「前田せんせい!」
ぼくの声にはんのうしたせんせいは、首をかしげて見てる。
「どうしたの?」
「じつはね、今日せんせいに、ずっとかくしてことがあったんだ!」
「え?なになに!」
ポケットのほうに入れておいた、オリガミ。いつもできない、オリガミ。へんてこだけど、よろこんでくれるかな。
「リボンつくったよ!せんせい、にあうとおもうから!」
ぼくの手に、ピンク色のリボン。せんせいがリボンを、ゆっくりと手にとる。
「先生のために作ってきてくれたの?ありがとう!先生とっても嬉しい。宝物にするね。」
せんせいは、ぼくのとっておきの大すきなせんせい。だからとびっきり、ありがとうってつたえたい。
「せんせいは、そのリボンよりもずっとかわいいし、かっこいい!足もはやくて、でもオリガミもできて、ピアノもできるしお歌も上手。みんなみんなそんな前田せんせいが大すき。」
せんせいが、ぼくが見た時よりも、もっともっと泣いちゃった。でも、お顔はいつものせんせい。おなじ、せんせい。ぼくのことを前田先生がぎゅっーとしてくれる。
いつもとおなじだ。
「うん。ありがとう・・・・・・!」
「すいませんっ!今日も遅くなりました。」
「あ、お母さん!」
ぼくのお迎え。一番最後のお迎えの時間。外はもうまっくらだ。
「いえいえ。大丈夫ですよ!あ、それじゃあねえ、さようならの挨拶しよう!」
せんせいが手のひらを見せて、ほんとうの笑顔を間にはさんでいる。
「せーの!」
「さ、よ、う、な、ら!」
ハイタッチを5回。今日は、いつもよりつよいくらいタッチした。手のひらが赤くなった。
「また明日、元気で来てね。」
「うん!」
連絡帳の最終ページに書かれていた話は、僕の大好きだった先生と過ごしたあの時間を、鮮明に表していた。
4月から保育士になる。新しい場所で、せんせいと同じ、先生になる。
どこまでいっても同じ。どこに行ったって同じだから。何も怖くなんてない。
保育園の連絡帳を鞄に入れてそれを抱きしめるように、新しい保育園の扉を開けた。
「佐山先生!おはようございます。今日からよろしくお願いいたします!」
「はい!!」
4月1日連絡帳
連絡帳の記録 学生作家志望 @kokoa555
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