Chapter6〜第三の男が現れた?〜
『葉月出版社』の近くにあるカフェで比嘉女史と一緒に打ちあわせをしていた…のだが、
「比嘉さん、異動になっちゃったんですか!?」
思わぬ報告を聞かされた私は驚きのあまり声をあげた。
「そうなんですよ、近いうちにファンタジージャンルの電子書籍が創刊されると言うことでそちらの方へ異動になったんです」
「それは大変ですね」
比嘉女史は今から5年前に私の担当編集者になって、年齢が一緒で好きなジャンルも似ていたので友達のように仲がよかった。
「先生のBLが読めなくなっちゃうなんて…」
「配信されたらすぐにでも読めますから」
ううっ…と泣きまねをしている比嘉女史に私は言った。
「来週辺りに新しい担当編集者さんが先生の自宅へあいさつにきますので」
「はい、わかりました」
その出来事から、今日で1週間を迎えた。
「初めまして、本日から永井先生の担当となりました古賀です」
「…よ、よろしくお願いします」
自宅に訪れてあいさつをしてきた新たな担当編集者は男の人だった。
ウェーブがかかっている黒髪は天然パーマなのか、それともかけているのだろうか?
肌も男の人にしてはとても白くてキレイで、その肌は生まれ持ったものですか普段使っている化粧品は何ですかと聞きたくなってしまった。
二重の切れ長の目にスッとした鼻筋、小さな唇と顔立ちは端正で…正直なことを言うと、ハーフなのかそうなのかごめんくださいお入りくださいありがとうと何か途中から変なあいさつが入ってしまった。
年齢が私の2歳下だと聞いた時は…ああ、とうとう担当さんの年齢が私よりも年下になったのね…と自分が老いたその事実を知らされたのだった。
と言うか、担当さんは男ときましたか…。
別に男が嫌だと言う訳ではないけれど…男の人ってBLが嫌いって言うかそのジャンルをバカにしているみたいなイメージがあるんだよね。
いや、全員が全員そうじゃないのはもちろんわかっている。
私が抱いているこのイメージも偏見になってしまうことも理解している。
でも、やりづらい感があるんだよね…。
「永井先生?」
「あ、はい」
古賀さんに話しかけられて、ハッと我に返った。
「僕、永井先生の担当になると言うことでいくつか作品を読ませてもらったんですけれど…」
「ありがとうございます」
大丈夫だったかな。
ジャンルによってはそう言うシーンもあったりするし、昔に書いた作品もあったりするからあまり読んで欲しくないんだけどな…。
「おもしろかったです」
「そ、そうですか…」
もっと他に感想はないのかと言う話だけど、ダメ出しでも聞かされたら立ち直れないような気がするので黙っておくことにした。
「永井先生、あまりしゃべらないんですね。
比嘉さんからよくおしゃべりをしてくれる楽しい人だと聞いていたんですけれど」
「えっ、ああ…」
比嘉女史よ、私に対して何ちゅー印象を後輩に話してくれたんだ…。
もちろん、比嘉女史に悪気はないのはわかっている。
「実は、男の担当さんがついたのは初めてでどう接したらいいのかわからなかったもので…」
「ああ、そう言うことだったんですか。
てっきり先生に嫌われたんじゃないかと思って気になったんです」
「ごめんなさい、何か誤解させてしまったみたいで」
古賀さんにそう言って謝ったその時、ジーンズのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
「すみません、ちょっと連絡が」
「ああ、どうぞ」
古賀さんから許可をもらうと、ジーンズのポケットからスマートフォンを取り出して画面を見た。
成海からメッセージがきていた。
碧流くんが家にきているから迎えにきてくれと言う内容だった。
そう言えば、今日はどこかへ出かけたみたいだけど成海の家に行ったのか。
でも迎えにきてくれって言うメッセージがきたけれど、碧流くんの身に何かがあったのだろうか?
「永井先生?」
古賀さんに声をかけられたので、
「すみません、弟からメッセージが届いて弟の家にこれから行かないといけなくて」
と、私は言った。
「ああ、いいですよ。
僕もあいさつをするために訪ねてきただけだったので、打ちあわせの話はまたこちらの方でご連絡をさせていただきます」
「はい、本日はありがとうございました」
古賀さんとのあいさつを終えると、私は成海の家へと足を向かわせた。
「風花…お前、碧流に何をしたんだ?」
玄関で私を出迎えてくれた成海はそう聞いてきた。
「何って…何を?」
その質問の意味がわからなくて、私は聞き返した。
「さっきから碧流が風花に嫌われたとか何とか言ってたし、何があったんだと聞いたら惚気話をしてくるし…」
「えーっ…」
私はどう返事をすればいいのかわからなかった。
「何かやったのかよ?」
「何でやった前提なのかがよくわからないんだけど…」
その質問に私は最近までの出来事を振り返ると、
「…特にないかも」
と、答えたのだった。
「そうか…じゃあ、連れて帰ってくれ」
成海はやれやれと言った様子で息を吐くと、私に向かってそう言った。
疑われるような心当たりもなければ何かした覚えもないんだけどな…と思いながら、私は靴を脱いだ。
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