Chapter5〜悩める親友からの相談*永井成海目線〜
…何があったと言うのだろうか?
「成海、どうしよう〜!?」
何とも情けない声を出しながら俺に泣きついてきたのは碧流だ。
中学時代からの同級生で親友である彼は俺の姉・風花の夫だ。
今日は休日、昼近くまで寝ていた俺をたたき起こしたのは連続で鳴らされた玄関のチャイムだった。
「地震か家事か泥棒か桑原和男か!?」
ごめんくださいどなたですかお入りくださいありがとう…と、変なあいさつを頭の中でしながら俺はベッドを出ると連続でチャイムが鳴らされている玄関へと足を向かわせた。
来客の予定もなければ荷物が届く予定もなければ頼んだ記憶もない。
そう思いながらサンダルを履いてドアを開けると、
「ど、どうした…?」
そこに立っていたのは碧流で、彼は何とも情けない声を出しながら俺に抱きついてきたのだった。
「…で、本当にどうした?」
とりあえず、碧流を家の中にいれると俺は理由を聞いた。
「ーー風花さんに嫌われたかも知れない…」
そう言った碧流に、
「はっ?」
俺は思わず聞き返した。
「何だ、ケンカでもしたのか?」
続いて聞いた俺に、
「いや、していない」
と、碧流は返事をした。
…先が見えないな。
「何にもしていないのに風花に嫌われた意味がわからないんだけど」
呆れながら言った俺に、
「いや、した」
と、碧流は言った。
「ほなどっちやねん!?」
彼の返事に俺は思わずツッコミを入れた。
話が先に進まないどころか見えないこの状況をどうしろと言うんだ!?
超能力者じゃないのに、どう読み解いて碧流にアドバイスをしろと言うんだ!?
何ともムチャクチャな彼に、頭痛が痛いとはこう言うことを言うんだなとそんな訳がわからないことを思った。
「風花さんからの同意を得ずにキスをした」
…はて?
何も言えないでいる俺に、
「風花さんに無理矢理キスをした」
と、碧流は言った。
…俺は何を聞かされたと言うのだろうか?
「間違いなく風花さんに嫌われた…」
碧流は嘆くように言ったかと思ったらテーブルのうえに突っ伏した。
…何じゃこいつ、何じゃこいつは。
まるでこの世の終わりかと疑いたくなるようなその落ち込み具合に、俺は某キモダチ芸人よろしくのセリフを言うことしかできなかった。
まずは、事情聴取から始めることにしよう。
「何で無理矢理したんだ?
風花が浮気でもしたのか?」
他人に興味がなさ過ぎる姉が浮気なんて言う人としての道を外す行為をするとは到底思えないけど…と思いながら、俺は碧流に聞いた。
碧流は突っ伏していた顔をあげると、
「風花さんは浮気なんてしない!」
と、腹の底からの大きな声で元気よく返事をした。
…まあ、そうだろうな。
「風花さんがかわいかったからキスをしたんだ…」
「ぶっ飛ばそうか?」
この世の終わりかと思うくらいの落ち込み具合を見せられた後に聞かされた惚気話に俺はどうしろと言うのだろう。
「おっとりとしているようでしっかりしている風花さんの慌てっぷりがかわいかったからつい…」
「何の話だよ」
俺のリアクションは間違ってないよな?
「その後で風花さんから同意を得ていなかったことに気づいたんだ」
「んなことを言われましても…」
俺はどうしろと言うんだ、どう答えろと言うんだ。
両手で頭を抱えた碧流に俺は何をすればいいのかわからない。
「絶対に嫌われた、風花さんに嫌われた…」
碧流はこの世の終わりだと言わんばかりにまた絶望している。
だから、どうしろっちゅーねん…。
「まだ嫌われた訳じゃないんだろ?」
そう聞いた俺に、
「いーや、嫌われた」
碧流は言い返した。
今に始まったことではないが、風花のことになると周りが何も見えなくなるうえに俺の話すらも聞かない親友に何をすれば正しいのかよくわからない。
ヘタに手を出したり、風花のことを悪く言うと先ほどのように元気よく否定されるのが目に見えている。
そもそも無理矢理、碧流曰く“同意を得ていない”キスをされた風花が気にしているのは愚か記憶にすらなさそうな気がするんだが…と言うのはあまりにも言い過ぎだと思うから、この辺りで止めておくことにしよう。
と言うか…もしかしなくても、今日はここに居座るつもりなのかそうなのか?
正直なことを言うと、この世の終わりだと言わんばかりのこいつと一緒にいたくない。
何のジョーダンだ、何のバツゲームだ。
風花を召喚するしか他がないなと思いながら、俺はベッドに手を伸ばして枕元に置いていたスマートフォンを手に取った。
メッセージアプリを起動させると、風花に送るメッセージを作成した。
『このメッセージを見たら今すぐに俺ン家にこい、碧流がきてるから連れて帰ってくれ』
後は風花がこのメッセージを見て碧流を連れて行くことを祈るしかないな。
と言うか、
「どうするんだよ、おい…」
俺が呟いた声も今の碧流の耳には聞こえていないみたいだ。
早くメッセージを見てくれ、夫を連れて家に帰ってくれと、俺は風花に念を送りつけるのだった。
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