マッチョだけど乙女ゲームの儚げなヒロイン侯爵令嬢に異世界転生しました。イケメン全員ルート攻略しないと生き返れないって、マジで言ってるの? 仕方ないから筋肉パワーで無双します!
第3話 俺、恋愛ゲームのヒロインでした!?
第3話 俺、恋愛ゲームのヒロインでした!?
筋肉は、日々の裏切らぬ努力の果てに応える。
これは真理だ。
だからこそ、鍛錬を積み重ねた結果、ついに――
「ふふっ……自由に歩けるって、最高だな」
誰の手も借りず、屋敷内を歩けるようになった。
階段も、廊下も、庭も、
今ではメイドの付き添いもいらない。
「さて、今日は……あそこに行ってみるか」
向かった先は、屋敷の西棟にある図書館。
使用人すらあまり出入りしない静かな空間で、幼い頃のリュミエールがよく読みふけっていたという記憶も、微かに残っていた。
バルクは、背伸びして本棚を眺めながら、魔導書の一冊を引き抜いた。
「へぇ……この世界の魔術って、元素ごとに系統が分かれてるのか」
記述は難解だが、理論構造は案外現実の物理法則に近い。
読み進めるうちに、ふと、別の書架に並んでいた分厚い本の背表紙が目に留まった。
『ローゼンベルグ伯爵家の系譜』
「あれ……この名前、どこかで……」
図書室に響く、バルクの呟き。
その名前。どこかで聞いた。いや、見た。
(ローゼンベルグ……ってたしか、妹が言ってた……あのゲームの……)
急いでページをめくる。脳裏に浮かぶのは、妹が夢中になってプレイしていた乙女ゲーム。
『セントラル・メモリア』
王族、貴族、騎士、魔術師、豪華絢爛な攻略対象たち。
その中で、ローゼンベルグというのは確か、代々闇魔術を使う名門貴族だ。確か、魔法学院の生徒会長として登場していた。
妹が特に推しだと言っていたことを思い出す。クーデレ?だったっけ。よくわからん。
「……まさか……俺……」
バルクは、青ざめた。
「俺……まさか……あの恋愛ゲームの……ヒロインかぁあああああああああ!?」
図書館の静寂が、一瞬で崩壊した。
しかし幸いにも、誰もいない。
バルクは頭を抱えながら、冷や汗を額ににじませた。
それでも、顔の血色は相変わらず悪いので、見た目は全然変化がない。
(……そうだ。天使が言ってた。
この世界で全ルート攻略すれば、現世に戻してやる、って……)
あのときは混乱してよく覚えていなかったが、今ならハッキリ思い出せる。
全ルート攻略。恋愛フラグ。
つまりは、この世界のイケメンたち全員と何かしらの関係を築き上げなければならない。
「……この俺が……男を……落とす……だと……?」
思わず膝から崩れ落ちる。
しかし。
バルクの脳裏には、現世の光景がよみがえっていた。
ベンチプレスの重さ。
ステージライトの眩しさ。
筋肉仲間たちと交わした誓い。
恋愛フラグだろうが、乙女ゲーだろうが関係ない。
「……戻る。俺は、あの大会のステージに戻らねばならん……ッ!」
すべては――筋肉のために。
✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩
ある朝、
「お嬢様、アストレア王立高等訓練院・中等部から入学試験のご案内です」
メイドが恭しく差し出した封筒には、王国の紋章が刻まれ、金の糸で縁どられていた。
「……なるほど。中等部の入試案内、か」
その瞬間、電流のように記憶が蘇る。
「アストレア……この学園名……」
脳裏に浮かぶのは、妹が夢中になっていた乙女ゲーム『セントラル・メモリア』のワンシーン。
そこでは、華やかな制服を着た貴族の子女たちが、青春と恋と陰謀に満ちた学院生活を送っていた。
「あのゲーム、確か魔法学校が舞台の恋愛ものだったな。ってことは……」
「そっか、そこで攻略対象を落とす必要があるのか!」
王子、貴族の跡取り、無口な騎士、腹黒い魔術師……。
すべては、アストレア王立高等訓練院に集うイケメンたち。
つまり、この学院に入らねば物語は始まらないのだ。
(攻略対象たちを、筋肉と精神力で制覇するッ!)
だが、書類を読み進めた
「入学資格……初級魔法を最低一種習得していること……」
そこには、しれっと重大な条件が記されていた。
(マジか……)
リュミエール=セラフィーヌ。
名門貴族の令嬢にして、極度の虚弱体質。
かつてはベッドから起き上がるのすら一苦労で、魔法の訓練どころではなかった。
その結果、魔法の才能は未知数。
というより、ほぼゼロのままここまできている。
「……俺、魔法なんて使ったことないぞ」
筋肉では突破できない現実が、今ここに立ちはだかっている。
「どうする……? 魔法が使えないなら、アストレア王立高等訓練院にすら入れないじゃないか……」
筋肉はある。努力もした。
だが、今必要なのは魔力というスキルだった。
✩⋆。˚╰(°ㅂ°)╯・゚˚。⋆✩
お読みいただきありがとうございます。
転生後、初めての試練を迎えました。
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