第2.5話*残された人たちの作戦会議

よく晴れた休日の昼下がりのことだった。


「カミラさん、マイケルさん、お久しぶりです!」


「ジェシカ、会えてとても嬉しいです!」


「俺も君たちに会えてとても嬉しいよ!


元気そうで何よりだ!」


駅の前で再会を喜んでいる3人の男女は、かつてある公爵家に仕えていた者たちだった。


メイドのカミラにシェフのジェシカ、庭師のマイケルがそろったのは1ヶ月ぶりだ。


彼らは再会を喜んだ後、近くの酒場で食事とおしゃべりを楽しむことにした。


「ジェシカ、新しい職場はどう?」


そう聞いてきたカミラに、

「大変ですけど、毎日楽しくやってます!


最近はデザート作りを任されるようになりました!」

と、ジェシカは楽しそうに答えた。


「カミラさんはどうなんですか?」


「私も楽しくやってる!


給料が下がったのは仕方がないけれど、旦那様も奥様も優しいし、子供たちも生意気盛りだけどかわいいからいっかって感じだね!


マイケルは?」


「俺は流浪の庭師ってヤツをしているよ!


最近は『コハマーナ』で開催されるイベントの手伝いをしてきたんだ!


準備は大変だったけれど、結果的に楽しかったうえに給料も手渡しですぐにもらえたからラッキーだったな!」


マイケルはガハハと豪快に笑った。


ひと通り近状を語りあうと、

「スザンナ様、今頃はどうされていますかね?」

と、ジェシカはソーセージをつまみながら言った。


「旦那様と奥様は田舎での暮らしを満喫していると、この前手紙が届いたわよ」


カミラはそう言った後、チーズをバケットに乗せるとかじった。


「スザンナ様はまだ旅に出たばかりだろ?


そのうち手紙が届くに決まってるよ、届いたら教えてくれよ?」


マイケルは笑いながらビールをあおった。


「あー、昼から飲む酒は美味いなあ」


そんなことを言っていた時だった。


「おい、聞いたか?


アーロン様がエリーゼ様と新たに婚約することを発表したらしいぜ?」


その話に、3人は食事の手を止めると耳を傾けた。


「マジか、エリーゼ様ってあのメイドのエリーゼ様だよな?


アーロン様の元婚約者だったスザンナ嬢が目の敵にしていじめていた」


3人は耳を疑った。


「いじめていたって…スザンナ様が?」


「私、そんなことを聞いてないんだけど…」


「おいおい、マジかよ…」


3人は声を潜めて話しあった。


「しかし、スザンナ嬢もだいぶひどいよな?


自分が由緒正しい公爵家の令嬢だと言うことを鼻にかけて、庶民のエリーゼ様をいじめるなんてひどい話だぜ」


「熱々の紅茶を顔にぶっかけたりとか床を磨いていた彼女の手を踏んづけたりとか結構ひどいことをしていたらしいぜ?」


「俺が聞いた話だと、他の令嬢たちにエリーゼ様の悪い噂を吹き込んで自分は手を下さずに彼女たちにいじめを行わせたって言う話だぜ?


スザンナ嬢は高みの見物みたいな感じで手をたたきながら大笑いして見ていたんだと」


「止めに入ったらスザンナ嬢はやめるどころか逆上して執事やメイドにケガを負わせたうえに公爵令嬢と言う立場を利用して彼らを追い出したらしいぞ」


「ひどい話だな」


「最後はアーロン様がいじめられるエリーゼ様を守って、スザンナ嬢に婚約破棄と国外追放を言い渡したと言う話だ。


それがきっかけでアーロン様とエリーゼ様は恋に落ちて婚約をしたって言う展開だよ」


「まさにシンデレラって言うヤツだな」


ガハハハハッと大笑いをしている彼らから目をそらすと、3人はテーブルから離れて会計を済ませると酒場を後にしたのだった。


酒場から離れると、

「何あれ、ひどくない!?」

と、カミラは怒鳴った。


「スザンナ様はおふたりのことを思って自分から身を引いたのに、何でスザンナ様がエリーゼ様をいじめたって言うことになっているんですか!?


しかも、いじめのやり方がひど過ぎるにも程があるんですけど!」


ジェシカも怒り心頭だった。


「俺、ちょっとあいつらに言ってくるよ!


スザンナ様は人をいじめるような悪いお方じゃない、むしろ彼らのことを思って自分から身を引いた心優しいお方だってそう言ってくるよ!」


そう言って酒場に戻ろうとしたマイケルを、

「待ってマイケル、落ち着いて!」


「そうですよ、そんなことを言ったら大変なことになりかねないです!」


カミラとジェシカは止めに入った。


「じゃあ、どうしたらいいんだ?


スザンナ様の悪い噂が流れているせいで、スザンナ様は悪者扱いされているんだぞ!?


それを黙って見ていろと言うのか!?


君たちは悔しくないのか!?」


彼女たちに止められたマイケルは地団駄を踏んだ。


「悔しいに決まっているじゃないですか!


スザンナ様のことをあんな風に悪く言われて悔しいに決まっているじゃないですか!」


ジェシカはぶつけられない怒りに両手で頭を抱えた。


「待って、方法があるわ」


カミラは言った。


「えっ?」


「どんな?」


ジェシカとマイケルはカミラに視線を向けた。


カミラは自分を見ている彼らの顔をじっと見つめると、

「目には目を、歯には歯を、噂には…噂で対抗するのよ」

と、言った。


「噂には、噂?」


そう聞き返したジェシカは首を傾げた。


マイケルは何が言いたいんだと言うようにカミラを見つめていた。


「私たちも噂を流すのよ。


スザンナ様に関する噂を流して対抗してやるのよ」


カミラは説明した。

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