第3話*初めましての国
「美味しい!」
先ほど下車した駅でブランチも兼ねて弁当を買った。
季節のフルーツと生クリームがたっぷりと入ったサンドイッチはとても美味しくて、後3箱くらい買えばよかったな。
お茶会でお菓子は出ていたけれど、食べる機会なんてなかったからこうして食べることができてとても嬉しい!
「甘い食べ物には甘い飲み物があいますな〜」
砂糖がたっぷりと入っているカフェラテを飲んで、私はホッと一息ついた。
質屋に出したドレスが思ってた以上の値段がついたので、またお金が増えてしまった。
せっかくだから宿泊先のホテルは豪華なところにしようかな!
時間はたっぷりあるし、途中でどこかへ寄り道してもいいかも知れないな…と、窓の外を移り変わる景色を見ながら私は心の中で呟いた。
「記念すべき最初の国は『コハマーナ』、どんなところかな?」
カフェラテを飲みながらフルーツサンドイッチを食べていたら、
「お嬢ちゃん、これから『コハマーナ』に行くのかい?」
と、それまで私の向かいの席に座っていたおじさんが声をかけてきた。
「はい、そうです」
旅ならではの人との交流だ…!
そのことにジーンと感動しながら返事をしたら、
「お嬢ちゃん、運がよかったね!
『コハマーナ』は明日から花祭りが開催されるんだ!」
と、おじさんは言った。
「花祭り、ですか…?」
何だ、そのお祭りは?
「『コハマーナ』は花がとても有名な国で年に1回、花がテーマの祭りが開催されるんだ。
明日から1週間だ、お嬢ちゃんは運がいいよ!」
「ありがとうございます」
そんな楽しそうなお祭りがあるんだ!
「そんな運がいいお嬢ちゃんにさらにいいことを教えてやろう」
「い、いいことですか?」
私が思わず聞き返したら、
「何とその花祭りで出会って恋に落ちたカップルは永遠に結ばれるって言う話だよ!」
と、おじさんは茶目っ気たっぷりにウインクをした。
「ホントですか!?」
何その話、めちゃくちゃ最高じゃん!
運命の人を見つける大チャンスじゃん!
素敵な恋にめぐりあえる最高で最大のチャンスじゃん!
「実はおじさんも30年前に花祭りでワイフと知りあったことがきっかけで結婚したんだよ」
「そうなんですか!」
運命の出会いに恵まれた人が言ってるんだからこれは間違いない!
「おじさん、私も花祭りで運命の人を見つけます!」
そう宣言した私に、
「おう、頑張れよ!
お嬢ちゃん、グッドラックだ!
いい旅しろよ!」
おじさんは親指をグッと立てた。
列車が終点である『コハマーナ』に到着したことを告げた。
「あー、寄り道最高!」
気の向くままに駅に降りて寄り道を繰り返したから到着した頃には夕方になっていた。
さて、これから今日から1週間までの宿泊先を決めるぞ!
「とりあえず、寝るところと水回りさえあればいいんだけどねえ」
そんなことを呟きながら駅を出ると、
「わーっ、すごい!」
私は思わず声をあげた。
おじさんの言う通り、『コハマーナ』は花でいっぱいだった。
右を見ても左を見ても花、花、花…と、たくさんあった。
色とりどりでいろいろな大きさの花があっちにもこっちにもあるし、その中には前世で見たことがある花もあれば、この世界に転生してから初めて見る花もあった。
「すごいなあ、キレイだなあ…」
そのうえ、明日からは『花祭り』と言うお祭りもあって…そこで出会ったカップルは永遠に結ばれるって言う話も聞いちゃった!
「運命の人か…」
本当に出会えたらいいな、出会えたら…それって最高じゃん!
ウフフウフフと笑いながら花が咲いている街の中を歩いて、本日の宿泊先を探すのだった。
「あー、ダメだったか…」
3軒目の宿を後にした私は息を吐いた。
明日から『花祭り』と言うこともあってか、宿泊先はどこも人でいっぱいだった。
「さすがに初日から野宿はしたくないなあ…」
そう呟いて息を吐いたら、グーッとお腹が鳴った。
そう言えば、まだ晩ご飯を食べていなかった。
「まずは腹ごしらえだ!」
それから宿泊先探しを再開しようと思いながら目についた飲食店に飛び込んだ。
「いらっしゃいませ〜」
店員が声をかけてくれたけれど、私は返事をすることができなかった。
飲食店は多くの客たちでにぎわっていて…ダメだ、座るところがなさそうだ。
時間も時間だからって言うのもあるかも知れないけれど、いろいろとタイミングが悪過ぎるな…。
そう思っていたら、
「あの…」
と、誰かに声をかけられた。
「はい?」
視線を向けると、男の人がそこに立っていた。
指通りがよさそうな黒い髪に奥二重の目、スッと通った鼻筋に小さな唇、スラッとした長身…と、なかなかのイケメンだった。
まるで芸能人みたいだな、ドラマや映画だったら間違いなく主演に抜擢されるな。
「えっと、何でしょうか?」
そんなことを思いながら返事をしたら、
「もしおひとりでしたら一緒の席に座りませんか?」
と、彼が質問してきた。
「えっ、いいんですか?」
私が戸惑いながら返事をしたら、
「いいですよ、僕も1人なので」
と、彼は答えた。
「それじゃあ、お言葉に甘えまして…」
私は彼からの提案で相席をすることになった。
荷物を下ろして椅子に座ると、
「どうぞ」
と、彼からメニュー表を渡された。
「ありがとうございます」
私は彼の手からそれを受け取ると、メニュー表に視線を落とした。
なるほど、この店はこれがオススメなのか…。
私は店員を呼ぶと、オススメのメニューを注文した。
店員が立ち去ったのを確認すると、
「ありがとうございます、助かりました」
と、私はお礼を言って彼にメニュー表を返した。
「いえ、何やら困っているなと思って声をかけただけですので」
彼は返事をすると、スプーンでカレーライスのような食べ物をすくうと口に入れた。
「束のことをお聞きにしますけれど、その大荷物は…?」
彼は私の足元に置いてあるトランクに視線を向けた。
「ああ、これですか?
私、旅をしているんです」
私は彼の質問に答えた。
「旅ですか?」
「はい…と言っても、今朝に生まれ故郷を出たばかりで先ほど『コハマーナ』に到着したばかりなんですけどね。
明日からお祭りが始まるみたいで宿泊先もどこも満員だって言われて困っていたらお腹が空いて…まずは腹ごしらえをしてから宿を探そうかなと」
「まだ決まっていないんですか?」
「はい、お恥ずかしながら…」
私はコクリとお冷を口に含んだ。
彼は何かを考えているような顔をした後で、
「あの…もしよろしかったら、僕と一緒に泊まりませんか?」
と、言ってきた。
「えっ…」
何を言われたのかわからなかった。
「お待たせしました、煮つけ定食ですね」
店員が先ほど頼んだメニューをテーブルのうえに置いた。
「食べながらでいいので」
「あ、はい…」
私は箸を手に取ると、食事をすることにした。
「美味しい!」
味つけが最高で炊きたてのご飯によくあう!
スープもホッとする味わいで、お腹が次第に満たされて行くのがよくわかった。
美味しい料理も旅先ならではのヤツだよね!
婚約破棄&国外追放万歳!
心の中で万歳三唱をしながら食事を楽しんでいたら、フッ…と目の前で彼が笑ったのがわかった。
「あっ、すみません…」
しまった、彼の存在を忘れていた。
「いえ、あまりにも美味しそうに食べるものですから…」
「美味しかったものですから…」
「わかります、僕も初めてきたんですけれど美味しいですよね」
私たちはフフフッと笑いあった。
「それで宿泊先のことなんですけれど…」
彼が話を切り出したので私は思い出した。
そうだ、一緒の宿泊先に泊まるって言う話をしていたんだった。
「本当にいいんですか?
相席することになったうえに宿泊先も一緒だなんて」
「困っている人を放って置けないですし、それに女性が1人で野宿をするのはあまりにも危険過ぎます」
確かに、そうである。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
そう言った私に、
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
と、彼は返事をしたのだった。
食事を終えてお会計を別々に済ませると、店を後にした。
「よろしかったら、荷物をお持ちしますよ」
「ありがとうございます」
彼はトランクを持ってくれた。
「それにしても結構重いですね…」
「少なくとも1週間くらいは入っています」
彼と一緒に宿泊先へと向かいながら話をしていた。
「あなた…すみません、まだ名前を聞いていませんでしたね」
「あっ、そう言えば…」
肝心の名前を聞いていなかったことを思い出して、私たちはまた笑いあった。
「では改めまして、僕の名前はルイスと申します」
「スザンナです、よろしくお願いします」
彼ーールイスが自分の名前を言ったので私も名前を言った。
「スザンナって言うのか、いい名前ですね」
「ルイスもいい名前だと思います」
「年齢は?」
「18歳です、あなたは?」
「僕は20歳」
意外にも年齢が近かったことに驚いた。
私よりも年上だろうなと思っていたけれど、年齢は結構近いんだな。
そう思っていたら、
「ここだ、ここが僕の宿泊先だよ」
と、どうやらルイスの宿泊先に到着したようだった。
ルイスと一緒に宿の中に足を踏み入れると、受付の人と話をしていた。
「許可がとれた、部屋に案内するよ」
「何から何までありがとうございます」
「あの、そろそろ敬語をやめてもいいですよ?
名前も聞きましたし、一緒に泊まる訳なんですから」
「あっ、そうで…そうだね、うん」
私はルイスと一緒に部屋へと向かったのだった。
「えっ、同室?」
何故かルイスと一緒の部屋に泊まるようだった。
「明日から1週間『花祭り』が開催される訳だし、受付にも相部屋だったら構わないって」
「ああ、そうなの…」
一緒の宿泊先に泊まるって言うから部屋が空いていて、そこに泊めてくれるのかなって思ってた。
まあ、どこも満員な訳だから相部屋だったとしても泊めてくれるだけまだマシか…。
「ベッドはスザンナが使ってくれていいから、僕はソファーで寝るよ」
「えっ…わ、私がソファーで寝るよ。
これ以上はもう甘えられないし、先に部屋に泊まったのはルイスの方だし、もうよくしてもらったから充分だよ」
私はルイスの手からトランクを引ったくると、ソファーのうえに置いた。
「もう充分だから、私がソファーで寝るから、ね?」
そう言った私に、
「君がそこまで言うなら」
ルイスは折れてくれたようだった、よかった。
「それじゃあ、今日はもう遅いからおやすみにしようか?
トイレと洗面所は入ってすぐのドアがそうだから、お風呂は大浴場があるからそこで、後で僕が大浴場に案内するから」
「じゃあ、先にお風呂に入りたいから案内をお願いしてもいいかな?」
「うん、わかった。
準備が終わったら声をかけてね」
私はトランクを開けると、タオルやシャンプーやリンスなどのお風呂セットを取り出した。
旅の初日で、初めましての国でいろいろなことはあったけれど、これも旅ならではの楽しさでもありハプニングだよなと思いながら準備をするのだった。
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