追放エンドを終えた悪役令嬢は旅に出ます!
名古屋ゆりあ
プロローグ
ーーついにきた、この時がきた…!
目的の場所へ歩いて向かっている間、私は自分の顔がにやけそうになるのを感じた。
ああ、頑張ったよ…頑張ったよ、私…今までよく耐えてきたよ、私…。
パワハラのような妃教育、令嬢たちからの嫌味に笑顔で耐えないといけない地獄のお茶会、私のことを肩書きで見ているうえに平気で媚びを売ってくる上辺だけの人間関係ーー本当によく耐えたよ、よく頑張ったよ…。
しかし…これから始まる最後の大仕事が終わったら、私は自由だ!
もう妃教育もしなくていい、お茶会にも参加しなくていい、上辺だけの人間関係からも解放される!
そう考えていたら目的の場所に到着した。
重厚そうなドアをコンコンとたたくと、
「はい」
と、中から冷たい声が聞こえた。
ケッ、最後の最後まで冷たいヤツだぜ本当に。
親が勝手に決めた関係だったうえに、婚約者の顔も見たくないってか。
これでも婚約関係を結んでいたのに、本当に冷たいな。
まあ、こいつとも金輪際関わらないからグチグチと文句を言うのはこれくらいにしましょう。
国外追放で済んだのも、婚約者としての情が一応はあってのことだろう。
私は気持ちを切り替えると、
「失礼します」
と、声をかけてドアを開けた。
ドアを開けると、見たことがあるその光景が目の前にあった。
金髪の男に、彼の腕にしがみつくようにしている赤茶色の髪の女、そんな彼らを両サイドで守るようにして立っている2人の男がいた。
きたよきたよきたよ!
金髪の男は私の婚約者のアーロン、赤茶色の髪の女は彼の恋人であるエリーゼ、両サイドにいるのはアーロンの幼なじみで騎士団長のジェームズと執事のロバートだ。
彼らは私のことをにらみつけており、いかにも嫌悪感が丸出しだ。
しかし、彼らからにらみつけられている私の胸はドキドキと高鳴りを感じていた。
さあ、始まった始まった!
最後の大仕事のスタートだ!
「ーースザンナ、お前がここへ呼ばれた理由はわかっているな?」
アーロンが口を開いたその瞬間、
「婚約破棄と国外追放の件についてですね!?」
と、私の口は勝手に動いていた。
あっ、気持ちが先走ったあまり口が勝手に動いちゃった!
でもいいか、これが最後なんだからとっとと話を進めて終わらせちゃいましょう!
彼らは何で知っているんだと言う顔をしているけれど、私もこの仕事を終わらせたいから勝手にすることにしよう!
「私がエリーゼ嬢をいじめたからと言うことで婚約破棄、そして国外追放と言うことでよろしいですね!?」
私がそう言って話を進めたら、
「あ、ああ…」
と、アーロンは戸惑いながらも首を縦に振ってうなずいた。
「ありがとうございます!」
体育会系かと思うくらいに大きな声を出してお礼を言って躰を2つ折りにして頭を下げた私に彼らが驚いたのがわかった。
「このスザンナ、婚約破棄と国外追放をありがたく受け入れました!
お国の繁栄と幸福を心の底から願います!
どうか末永く、お幸せに暮らしてくださいませ!」
そう叫ぶように言った後で、私は顔をあげた。
彼らは唖然とした様子で私を見ていたが、私の胸の中はスッキリとしていてとても晴れ晴れしかった。
「それでは皆様、ご機嫌よう!」
私は彼らに向かって元気よくあいさつをすると、部屋を後にしたのだった。
自由だ自由だ!
「自由だー!」
こんなにも晴れ晴れとした気持ちになったのは久しぶりだ。
最後の大仕事を終えた私は自宅の屋敷に走って帰ると、それまで着ていたドレスを脱ぎ捨てた。
シャツとズボンを身に着けると、胸元まである髪をひとつの三つ編みにしてまとめた。
お気に入りのハンチング帽をかぶってポシェットを身に着けると、そのうえから薄手のコートを羽織った。
「よし、準備オッケー!」
トランクには1週間分の着替えが入っている。
ポシェットにはチョコレートやキャンディの小さなお菓子とお金が入っているが、念には念を入れてトランクの小さなポケットにも靴下の中にもズボンのポケットにもお金は入っている。
「よし、行くぞ!」
着ていたドレスは質屋に売ってお金に変えるだけ、屋敷の売却はもう済んでいるので鍵をポストの中に入れたら終わりだ。
玄関に向かった私は靴を履いた。
さあ、人生はこれからだ!
これからは自分が行きたいところを旅して美味しいものを食べて、本当の友情に素敵な恋を見つけるんだ!
「待ってろよ、バラ色の人生!」
ドアを開けたその瞬間、私は新たな人生の1歩を大きく踏み出した。
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