第17話 中層へ戻って
改めて、アリスさんと麗香さんとパーティを組んで俺たち3人は、東京ダンジョン、中層開始地点、第26層の入り口にやってきた。
「さ、まずは総司君のペースに合わせてここからスタートだね」
アリスさんは、肩に手を当てて俺の顔を覗き込みながら明るくそう言った。
「ボクらは60層まで転移できるから、それで一気に行くっていう手もあるけど……」
「……お勧めはしませんし、あまり褒められた行為でもないですわね」
麗香さんは、手元でメナスから投影されたホログラムを操作しながら冷静に言葉を挟む。
「焦らずとも、総司さんならすぐ下層にも行けるようになりますわ」
評価と信頼がにじんだその声に照れながら、背筋を伸ばす。
「……もう知ってるとは思うけど……ダンジョンは中層以降が本番だよ……」
そう口を開いたアリスさんの視線は、薄暗い魔力の霧に包まれた26層の闇を見つめている。
「モンスターも魔法を使ってくる、ですよね」
「その通り、この先は25層のカレイドウルフみたいな奴がうじゃうじゃしてる……探索者の死亡率もぐんと上がる」
アリスさんの声はどこか冗談めいていたが、その奥には明確な緊張感があった。
「……とはいえ、中層以降で一番気を付けないといけないのは、アレだよね……」
そう言って、アリスさんが意味深に麗香さんのほうを見る。
「……ああ、アレ……そうですわね」
麗香さんは小さく頷き、何やら芝居がかった空気を醸し出す。
「何です?……アレって」
気になって尋ねると、口元に扇子を添えて、もったいぶった口調で話し出す。
「ふふふ、ではわたくしが説明して差し上げましょう、中層で一番気を付けるべきアレとはズバリ———異層k———」
『
きっちりとした女性の機会音声が、自信満々の麗香さんの声を遮った。
「ちょっと?メナスさん?」
「異層干渉?」
首をかしげる俺にメナスは事務的に説明を続ける。
『はい。主に中層で発生する現象で、下層もしくは深層に生息するモンスターが自身の生息階層を突破し、中層まで上昇してくることを指します』
「……無茶苦茶だな」
『世界各地のダンジョンで数年に一度、極稀に発生が確認されており、出現するモンスターは既知の下層級モンスターがそのほとんどを占めます……ですが——』
「問題は!東京ダンジョンでの異層干渉、その常習犯である黒龍の存在、ですわ!」
ここで麗香さんが声を張り上げ、メナスから会話の主導権を取り戻す。
「……黒龍」
『管理局も存在は認知していますが、詳しい正体は掴めていない、多くの謎に包まれたモンスターです。現在までに黒龍と接触したとみられる人物は計135名。全員が死亡あるいは
「……その黒龍がまたアクティブな奴でね、だいたい二か月に一回のペースで中層に上がってくるんだ」
アリスさんが肩をすくめる。冗談っぽく言っているが、その言葉の重さは笑えない。
「黒龍のせいで、この東京ダンジョンでは、中層以降に進出する探索者が他の地域に比べて極端に少ない」
『現在、東京ダンジョンに挑戦される探索者様の内、中層以降に挑戦されるのは全体の4%程です。世界のダンジョンでは20~30%程度であることを加味すれば、黒龍の影響は大きいと言わざるを得ません』
「……当然といえば当然ですわね、下層ならまだしも深層級のモンスターと中層で鉢合わせる可能性のあるダンジョンなんて、命がいくつあっても足りませんもの」
「……でも、二人は東京ダンジョンで活動するんですね」
俺の問いかけに、アリスさんは真っすぐ頷く。
「ああ、黒龍を打ち倒し、最下層にたどり着く。それがボク達の目標なのさ」
「わたくしは巻き込まれてるだけですけどね」
「でも、なんんだかんだついてきてくれるんだろう?」
「……まあ……お目付け役、ですわ。ほっとくとすぐ死んでしまいそうですし」
「……感謝してるよ」
短いやり取り。だが、そこには信頼と長い付き合い、二人の関係性を感じさせる温度があった。
「まあ何にせよ、深層に行くにも黒龍を倒すにも力が足りない。そういうわけで、君にも協力してほしい」
「……あんまり期待して、中層以降で役に立たなくても怒らないでくださいよ」
「あははっ!……絶対ないから大丈夫……少なくとも中層は君の限界ではないと断言するよ」
そして、俺たち三人はゆっくりと、暗い洞窟の中へ足を踏み入れていった。
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