第14話 第一等の二人
初日の探索が終わって二日後。一日の休息を入れて、俺は再び東京ダンジョンへと向かった。
今日は平日の水曜日。世の学生諸君は今頃勉学に励んでいるころだろうが、高校には通わずに、探索者になった俺には関係ない。
百年以上前までは、高校もしくは大学まで通って、就職するのが一般的な日本人に用意されたレールだったが、現代日本では俺のような選択をする人間も少なくない。
断じて剣にかまけて勉学を怠っていたとか、友達がいないとかではない。16歳の時に高卒認定は取ってあるから問題ないったら問題ないのだ。
「あ~久住さーん!ちょっとお時間いいですか~」
聞き覚えのある声に振り返ると、案の定、アドバイザーの泉さんがの気楽な笑顔を浮かべながら、ぴょこぴょこと手を振っていた。
「あ、泉さん、何です?」
「実は、先日お話ししたパーティの件なんですけど、私の担当の二人組の方たちが久住さんと話してみたいって言っていまして~」
「はあ……」
正直なところ、中層も一人で行くつもりではあった。いかにモンスターが魔法を使うといえど、まだ俺を満たすだけの敵には出会えていない。
別に天狗になってるわけじゃない。俺の戦い方の都合上、他の探索者と組むのは正直ハードルが高いのだ。モンスターに切り込んだ俺ごと、範囲魔法で吹っ飛ばされるなんてのは、絶対に避けたい。
「あ~、興味なさそうですね~良いんですか~?お二人は第一等探索者ですよ~」
「第一等……」
泉さんの言葉に、少しだけ目を見開く。
第一等級の探索者は、下層下部から深層への適性があると判断された指折りの実力者だけがなれるもの。M.E.N.U.S.の配信などで近年露出が上がったことによって身近な存在に感じられるが、その地位にあるのは世界でも300人前後。
そうなると話は変わってくる。
「久住さんの配信を見てから、興味津々なんですって~。良かったらお会いしてみませんか~」
「そういうことなら、是非……」
「良かった~、あ!噂をすれば、件のお二人がいらっしゃいましたね~」
泉さんが管理局の入り口のほうに手を振る。その視線を追って、俺も自然と振り返る。
歩いてくるのは、対照的な雰囲気の二人の探索者だった。
そのうち、手を振る泉さんに気が付いた一人が、足早にこちらに駆け寄ってきた。
「や、久住総司君…だよね?ボクは
「
一人は有栖川 奈央。軽装の騎士鎧を身に纏い腰には一目で逸品とわかる剣を帯剣している。爽やかな印象の優男といった印象を受けるが、俺は気づいてしまった。胸部のプレートメイルに抑えられてはいるが、その胸部装甲の膨らみは明らかに男のものではない。
もう一人は、優雅に裾をつまんで一礼をするいかにもお嬢様然とした佇まいの女性。姿勢は天井から糸を張ったようにぴんと伸びていて、視線は柔らかくも芯がある。どこか高貴で、近寄りがたい雰囲気がある。
「ど、どうもご丁寧に、久住総司です。こちらこそよろしくお願いします」
「うん、よろしく。急にごめんよ、驚かせてしまったかな」
そう言いながら歩み寄ってくる、有栖川さんは俺の全身を上から下へと目を這わせて一見した。
「それで、一等探索者のお二人が魔法も使えない木っ端にどうして?」
少し皮肉混じりに問いかけた俺に、麗香が優雅に微笑みながら答える。
「謙遜も過ぎれば皮肉ですわよ、貴方が木っ端なら世の探索者の半分以上が木っ端以下ということになりますわ」
「……うん、やっぱりだ……実際に見て分かった。君、魔力を制御してるね」
「?……はい、それが…何か?」
「何かって……ご冗談でしょう?」
『久住3等は、自身の特異性について理解が乏しい傾向があります』
すると、いつの間にやら勝手に起動したメナスが泉さんのいるカウンターから抜け出して、俺の背後から声をかけてきた。
それに、今俺を3等と言っていたが……まあ、あとで詳しく聞こう。
「うおっ、メナスいつの間に……」
『久住3等の管理局入館を検知したため、起動いたしました』
「え怖、ストーカー?」
『高位追跡目標である貴方はM.E.N.U.S.によって動向を追跡されます』
「いや、何それ答えになってないけど……」
『……』
「怖い!なんか言って!?」
「……いいかい、君が当たり前に行っているソレは、他の探索者にとってそうではない」
そう言って有栖川さんは、一歩後ずさって自身を見せるように軽く両手を広げる。
「君には、僕の魔力はどう映っている?」
その言葉に促され、俺は自然と目を凝らす。すると、有栖川の全身から、まるで炎のようにゆらゆらと揺れる魔力の奔流が立ち上っているのが見えた。
流石は第1等探索者。二人とも戦闘中でなくても体から放出される余剰魔力は他とは桁違いだ。
「……ボク達とは違って、君の魔力は殆ど体内に抑え込まれているように見えるね。どうしてか、聞いてもいいかい?」
「……無駄を減らすためです。魔法で使われない余剰魔力を垂れ流すくらいなら、身体強化に回したほうが効率がいい」
「――それだよ、魔力での身体強化。それってね、普通は魔法を使い続けて、徐々に容量を広げて、少しずつ体に慣らしていく……言わば、筋トレみたいなものなんだ。意識しただけで簡単にできることじゃない」
「………ふむ」
「もし、君さえよかったらなんだけど……」
有栖川さんが、ほんのわずかに身を乗り出す。
「ボク達に、その技術を教えてくれないか!」
「ちょっとアリスさん? いくらなんでも、礼を欠いているのではなくって?」
探索者にとって、魔法は命の次に大切な“商売道具”だ。その発動式や技術を探る行為は、基本的にタブーとされている。魔法が使えない俺にとっての身体強化術も、それに近い位置付けになるだろう。
「もちろん、タダでとは言わないよ。パーティの件はむしろ、ボクからお願いしたいくらいだし。君の要望には、できる限り応える。どうかな?」
「……とまあ、この通り、言い出したら止まらない人なので。ぜひ、ご一考いただけませんか?」
「いや、まあ。別にこの技術を秘匿するつもりもないので……構いはしませんが」
「ッ! 本当かい? それはよかった!」
「そうですか……感謝いたしますわ」
「それでさっそく、一つ頼みがあって……」
「何だい? 言ってごらんよ」
俺は一度、深く息を吸った。
そして、ゆっくりと、有栖川奈央の瞳を真っ直ぐに見据える。
片や”剣聖”と呼ばれる強者。
片や”魔戦姫”と呼ばれる一流の魔法使い。
世俗に疎い俺でも知っているビッグネーム。そんな人達が目の前にいて、自分の頼みを聞いてくれると言うではないか。頼まない手はない。
「俺と、一手、お手合わせしていただけませんか?」
礼節も忘れずに言ったつもりだが、恐らく俺の目が、口が、何より雰囲気がそれを台無しにしていた。
「第一等が……どれほどのものか。この身で、確かめてみたいんです」
——抑えがたい衝動が、突き動かす。
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