第3話 ハプのお店

 おばさんに背中を押されながら屋根を潜る直前、ナナはお店の看板を見上げた。「とハチミツ」だけ後から付け足されたように書かれたそのお店の名前を、ナナは小声で読んだ。


「『ハプのスパイスとお茶とハチミツのお店』」


「そうだよ!すごく良いお店だから今日だけじゃなくてまた来ると良い」


 おばさんはナナの背中を押す。


 からんからん


「おじゃまするよ!ほれこの子。大さじだけを売って欲しいってさ!」


 バンバン!とナナの背中を叩いてお店の中に押し込むおばさん。けれど、お店の中には誰も見当たらない。「じゃあ私は行くから!」とおばさんは店の奥に向かって言った後、じっとナナの顔を見て、ため息をついた。


「あんたどこから来たんだい」


「フルリです」


「フルリの森だね。じゃあケム四角よつかどでいいね」


 ケム四角は、ナナとおばさんが出会ったデパートの前。真ん中に四角い広場のある交差点だった。


「ハプ、この子が帰る時に、ケム四角までの良い道を教えてあげて。地図でだよ」


「はいはい、お安い御用よ」


 と店の奥から店主らしき女の人の声がした。


 ハッとおばさんから目を離してお店の中に振り返るナナ。と、後ろからバン!とドアの音と、からんからんとベルの音。また驚いて振り向くと、勢いよく閉まりすぎてまた開いたドアで、ガス!っと鼻をこすった。


「ひゃ!」


 おばさんがお店を去ったようだった。


「ありがとうございました」


 ゆっくりと閉まり始めたドアの隙間。そこからかすかに聞こえるおばさんのバイクの音へ、ナナはそう小さく呟いた。

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