大さじを買いに

乃波ウタ

第1話 ココフの朝

 早朝4時61分。蟻もキッチンにやってきていない、まだそんな頃。


 1つのお家にポンと灯りがついた。


 テテテに住むロロのナナは、朝にココフというお茶を飲む。お茶は、とってもとっても大事だ。なぜならお茶は、お腹にある火を助けるから。


 ぼこぼこぼこぼこ


 お湯が沸騰している。ナナは今日もお茶を作る。戸棚を開けて、計量スプーンの入った入れ物を出す。たくさんあるスプーンの中から、ガチャガチャと「大さじ」を探す。


「うーん、あ、あった」


 ナナは取り出したそれを見つめる。なんの変哲もない、お料理用のシンプルな大さじ。


 可愛いお茶用の大さじが欲しいなあ。


 ナナはそんなことを思いながらココフをオリーブのすり鉢に入れてごりごりとやっていた。沸騰したお湯に、すり潰したココフをさっと入れる。そうすると、シュワシュワと泡になってぼこぼこに飲み込まれて行く。だんだんと、ぼこぼこからココフの薬草のような香りが部屋いっぱいに広がりはじめる。ぼこぼこしている間に、コップにハチミツをたらす。コップの中に入れておいたティースプーンに、トロリと甘さが溜まっていく。


「そのままで飲めたらいいのだけれど。これがないと、何か物足りないもの」


 誰にともなく言い訳のように呟くナナ。5分が経ったので火を止めて、お茶漉しでココフを受け止めながらカップに注いでゆく。かちゃかちゃとお茶を混ぜて、ナナは目を瞑った。


 ココフの香りを胸いっぱいに吸い込む。そして少しだけ息を止める。そうすると、胸の中で香りの湯気が浮かんでくる。湯気は雲のように、フワフワ回る。温かく、ゆるく、ゆっくりと。ナナはこの感じが大好き。ふぅーっと長く息を吐くと、お腹の火がゆらゆらと揺れるのが分かる。ナナはこの感じも大好き。コクンと一口飲めば、心が温まる。もう一口飲めば、お腹が温まる。そうして一口ごとに、心と身体が温かくほかほかしてくる。


 ナナは窓の外を見る。今日をどうやって良い一日にするか決めたみたい。


「よし、今日は大さじを買いに行こう!」

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