邪神様に『苦痛耐性』を授かった幼馴染がまさかのドM冒険者として頂点に君臨した

琴野 音

プロローグ 女神様(悪)は余計なことをしました

 この世界には沢山の女神様がいるらしい。女神様は気まぐれに人類の前に現れては特別な一人を選び、各々一つ加護を与える事で人々を守ってきた。

 選ばれた者は【神子テスタメント】と呼ばれ、それだけで人気者になれるほど誇らしいことなのだ。だって、遠い過去から現在までの神子は人類に多大な恩恵を残してきたのだから。


『そなたに人を越える力を授けよう』


 そんな神子がこの世界にまた一人増える。僕はとんでもない現場に居合わせてしまった。

 選ばれたのは僕の幼馴染であるイリナ・ヴォーゲル。まだ10歳なのに女神様に見初められるなんて、もしかして英雄になったり? 色んなものを開発する学者様? 新しい国を作る王様なんて!? あぁ、凄いよ。気弱だけど真面目に人のために尽くしてきた彼女は選ばれて当然なんだ。


「でも……私……」

「イリナ、僕はキミがどんなに凄い人になっても隣りにいるよ! ずっと友達だ!」

「ユウくん……うん、がんばるね。ずっと一緒にいてくれるんだもん」


 村の近くの森に放置されたくたびれた石碑。それに触れたイリナの身体が青黒いに包まれる。


 あれ? なんか邪悪……?


 闇はイリナの中に吸い込まれ、赤かったはずのイリナの目が深い青色に変わった。


『そなたに与えたのは【苦痛耐性】。生物全般が弱点である苦痛を1/10にする加護である。使い方次第で大いに役に立つであろう』


 苦痛耐性?? 何それ聞いたことない……特殊技能みたいなの貰えるんじゃないの??


『ふぅ、一仕事終えたからこれで天界に帰れるのか? あーあ、邪神に堕とされてからこんな森に封じられて肩凝ったわい』


 今なんて? 邪神って言った?


『たまたま現れた少女よ。我の為に善行を積んで貢献するがよい。そなたの貢献によって我に報奨金が送られ我が豊かになるだろう』


 駄目だ。聞き間違いじゃない。めちゃくちゃ邪なこと言い出した。


「め、女神様じゃないならイリナを元に戻して! 邪神に見初められたなんて知られたらイリナが!」

『無理無理、その加護は死ぬまで続く。いいではないか、単に痛みに強くなる程度の安い能力だが役に立つぞ? 虫歯とかに』

「やっぱり安い能力なんだ! 人を越えるなんて嘘ついて子供を騙すなんて!」

『もうよい。さてさて迎えはいつ来るのかな♪』


 石碑はそれから一切言葉を発さなくなって、残されたのは加護(呪い)を受けた少女と石碑を叩き続ける僕だけ。

 どうすれば、村のみんなになんて言えばイリナを守れるんだ! 考えろ! 考えろ!


「ユウくん……」

「はっ!」


 震えた手で僕の服を掴むイリナ。泣きそうな彼女の顔を見て、ここで遊ぼうと誘った僕は罪悪感で先に泣いてしまった。

 イリナの肩を掴んで、彼女の新しい目をしっかり見つめた。


「僕は一生イリナの味方だよ! 村の人がなんて言ったって、世界中の人がなんて言ったって、僕だけはイリナを守る! 絶対に一人にしないからね!!」

「うん、うん……ユウくん、ありがと」


 二人で泣いて、僕はイリナを抱きしめながら「大丈夫だから」と呟き続けた。







 あれから10年。

 僕は再び石碑を訪れ、隣りに座って膝を抱えていた。実はこうして過ごすのは初めてではない。どうしようもなくなったらここに来ていた。


「ねぇ、邪神様……いやクーリャ様。責任とって下さいよ」

『……ホントにすまんと思っておる』


 邪神クーリャ様は天界に帰れていない。聞いたところ「一人の神子を天寿にすら導けていない身で調子に乗るな」と門前払いだったらしい。

 クーリャ様と同時にため息を吐いて、僕の心を悩ませる少女を思い浮かべる。


「私の事考えてたよねユウくん!!」

「まだ輪郭すら思い浮かべていなかったよ!!」


 突如現れたのはミスリル装備に身を包んだ今国中で話題のブラックプレート冒険者に成り上がった幼馴染だ。軍としてモンスターを指揮していた邪龍アボロバルドスの単独討伐を成した功績と、が広がり続ける注目の的。

 今日も絶好調に僕に懇願する。


「さぁユウくん! 今日も私を殴って!! お腹が真っ赤になるくらい強く! 全力で!! 顔でもいいよ?♡ ほら修行なんだから気にしないで?? 私を高みに連れてイッて♡♡♡」

「高みじゃなくてどんどん堕ちていってるんだよー!!」

『まさかこんな娘になるとはな……』


 苦痛に強くなった幼馴染は、苦痛を感じるまで修行することを日課とした結果、苦痛を快楽として求めるほど性癖が歪んでしまったのであった。

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