知力2でも頑張ります

こう

第一章 知力が2でも、出会いはあります

第1話

マーギアル帝国――大陸西方にその名を轟かす大国。

帝国の心臓部には王城と並んでそびえる巨大な学舎がある。


帝国魔法学園

魔法と剣、学問と政治、ありとあらゆる才を育てる、若者の憧れの地だ。

卒業すれば将来はほぼ保証。貴族の子女はもちろん、地方の秀才や他国の留学生まで集うエリートの巣窟――らしい。


そんな煌びやかな舞台に、一人の少年が足を踏み入れようとしていた。


名を「セイジ・カンナヅキ」。

先祖譲りの黒髪は短く、活発そうな男子だ。

まだ、着慣れていないのか、学園の制服に着せられている感がある。

彼は幼い頃、“天才”と呼ばれていた。


しかし、現在の彼はというと...。


「ユキ、なんで俺は受かったんだろうか...」

「試験を受けたからじゃないかな?」

「うおぉぉぉ!なんで試験を受けてしまったんだぁ!!」


すでに、帰りたそうにしていた。

それというのも、学園の入学試験にて彼の名は学園中に響き渡っていたのである。


『知力2のバカ』と。




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ある街で1人の赤子が産まれた。

立ち会った医者曰く、産まれた瞬間からドラゴンを凌ぐほどの魔力を持っており、産声を聞いただけで威圧されるほどだった。

天才が産まれたと、村中で大騒ぎとなった。



天才は5歳の適正検査でも周りを驚かせた。

何と、すべての魔法の適正がSだったのだ。

これは、大国であるこの国でも1人か2人しかいないほどの逸材である。

両親は喜び、将来は安泰だと涙する。

将来は国の柱石たる宮廷魔術師にすらなれるのではと噂が広まるほどだ。



そして、12歳での能力検査。

天才の知力は2であった……。

村中で囃し立てていたものは、すぐに彼から離れていった。

知力2では、まともに魔法を放てないからである。


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「では、次のところをスベン君、読んでくれるかしら」


春先の朝。帝国魔法学園、初等課程の教室。

女教師の柔らかな声が響く。


「はい!扱える魔法は適性で決まり、魔法を撃つためには魔力が必要となる。そして魔法の威力は知力によって変化する――」


「ありがとう、スベン君。知力が高い人は魔法の威力が高くなります。勉強ができるかどうかとはまた別となりますね。じゃあ、次はセイジ君」


……シーン。

返事がない。


「あれ?セイジ君?出席簿には……」


「あの、先生」

おずおずと挙手する女子生徒。短い白銀髪、切れ長の瞳。

彼女の名はユキ・シラサギ。

セイジの幼馴染で、学園の保健係だ。


「セイジは、『頭悪いから保健室行く!』って保健室行きました」

「シラサギさん!いくら仲がいいからって、言っていいことと悪いことが...」

「彼本人が言っていたので……。まあ、おそらく、“頭痛い”の間違いだと思いますが。」

「………」


教室が再び静かになった。


「じゃ、じゃあ、次のところシラサギさんお願いできるかな!」

「……はい」


また、セイジのせいで割を食ったと考えながらも教師から指定された箇所を読み始めた。


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