黒薔薇の淑女と初老夫
やみお
南国にて
「おい…ロゼ…待ってくれ」
「体力のない男だ。いや、初老ならそんなものか」
白の女優帽に白のワンピースの女はロゼと呼ばれていた。真っ白な砂浜を軽やかに、ワンピースを翻しながら歩いていた。
「ふぅ…砂に足をとられながら歩くのは辛い」
「ジャック。ハネムーンの行き先は南国が良いと言ったのは貴様だぞ」
青色生地にピンクのハイビスカスがプリントされたアロハシャツを着ている初老の男。ジャックと女に呼ばれていた。二人とも左手の薬指には指輪が光っていた。
「私は泳ぐぞ。でもまぁ、妻として夫を支えてやろう」
ロゼは水色のプラスチック製の鞄を開けると手慣れた手付きで組み立てていった。
「パラソルとチェア。こんな重い物をバスケット持つ感覚で持っているとは…感謝する。座らせてもらおう」
ジャックは組み上がったチェアに腰掛ける。南国の差す様な日差しをパラソルが防いでくれる。
「ジャパンにでも行けば良かったか…治安も良いし、飯も旨い。人も良いと聞く」
ロゼはジャックの愚痴など聞かず、既にワンピースを脱いで、シンプルな黒のビキニに着替えていた。
「プライベートビーチだとしても…何もない場所で脱いだのか?」
「よく見ろ耄碌。更衣室がある」
蜃気楼と疲労でよく見えていなかったが確かに更衣室が見える。
「…そういえばこのプライベートビーチはどうやって借りた?」
「黒薔薇の執行者として稼いだ金があってな。私の土地だ」
ジャックは呆然とする。元からロゼは貴族である事は知っていたが暗殺者としてもそんなに稼いでいるとは知らなかった。
「ハワイだのグアムだの言われていたら詰みだった。南国という大まかな指示で助かった」
暫く考えてからジャックはとある疑問をぶつける。
「…まさか島丸ごとロゼの土地とか言わないよな?」
「そのまさかだ」
ロゼは並外れた身体能力でヤシの木に登って、そこから海に飛び込んだ。
「気持ちいいぞ!ジャック!」
ジャックは無言で首を横に振った。
―
泳ぐロゼを見ているうちに寝落ちして、日が傾いて、パラソルから出ていた右腕が日焼けで真っ赤になって痛いと嘆くジャックであった。
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