第6話 月

 沙織さおりの葬儀はWLRA主導で極秘で行われた。裏社会において、沙織という大きな犯罪抑止力がいなくなったという事実を隠す事で秩序を維持するためである。とはいえ、そう長くは隠し通せない。結果的には沙織を死に追いやった識神の詳細と対策が構築できるまでの時間稼ぎに過ぎないだろう。


 親友を目の前で失った留美には、しばらくの間、休暇をとるよう勧めたが、沙織の事を想ったら休んでなんていられないと言って、るかとなぎの助言を得ながら例の識神の行方を追って情報を集めている。


 仲間の死の悲しみが癒える間もなく、ツクヨミのエージェント達は日々の睡魔との戦いに赴く。


 WLRA本部も今回の事件を受けてエージェントを保護する動きが活発になっており、ツクヨミでも、るかとなぎは他支部の技術開発者と頻繁に連絡を取り合い多忙な日々を送っている。


 沙織を死に追いやった例の識神は“ぬえ”と命名され、当時の戦闘データを元に街全体に警戒網を布いてエージェント達を保護するシステムが速やかに構築され、その仕様は他の支部の街にも適用されていく。


 沙織の死因であるドッペルゲンガーについては、ツクヨミに所属する者でも目にするのは初めてで事例としては珍しい。実際、組織内での出現は数年ぶりだったというが、これは戦闘スーツのドッペルゲンガー抑制機能が正常に働いているという証拠でもあった。


 ドッペルゲンガーの出現条件は、ポートエネルギーの過剰供給によるものだとわかっている。沙織のスーツを解析したところ、スーツのリミッターは正常に機能していたが鵺のエネルギーがあまりに膨大で、接触したさいに破壊されてしまっていた。


 鵺が識神である以上、その背後には術師がいるはずだが、それほど強力な術師が本当に存在するのか?なぜドッペルゲンガーを出現させる事なくあれほどの識神を使えるのか?疑問は多くある。


「ポートエネルギーとかドッペルゲンガーとか。一体なんなんですか?説明を聞く限り、僕達はなにか大きな仕組みの中にいるような気がしてきたんですけど」


 隼人の疑問に冬弥が答える。


 ツクヨミという組織名は親組織であるWLRAの目的に基づいて命名されたもので、日本神話に出てくる神様の月読というより、月を読み解くという意味合いのほうが強いという。つまり、本業としては月の調査をしているわけだ。


 現在わかっているのは、ポートエネルギーの供給元は月であり、この地球は月に支配されていると言っても過言ではないほどに影響を受けているという。


 その月からすると、ポートエネルギーの過剰な供給は不正や不具合にあたり、それを罰する形でドッペルゲンガーが出現して供給先を無効化する、いわばメンテナンスのようなものだと考えられている。


 月にはまだまだ謎が多く、全てを知るには至っていない。だからこそ、WLRAを母体としてツクヨミを含めた支部の存在がある。月の謎が全て解明されれば睡魔の出現を無くすだけではなく、月にあるかもしれない、何かしらのテクノロジーの恩恵を受けられるのではと期待されているのだ。

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クリミナルズ hydeA @hydeA

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