猫をいつか

明鏡止水

第1話 新しい猫を家族と認めない。

「さいごに、もう一回だけ、猫を飼いたいの」


母親が言った。


いいんじゃない?


わたしはどうでもいいので、どうでもよく返事をした。


ねこが、だいすきだった。


むかしは。


だいすきだった。

いままで飼ったねこたちは、悲しい別れをしていった。


優しいけど胆管炎で死んだねこ。


ケンカがつよくてみんなを守っていたけれど、猫エイズに感染してしまって痩せて死んでしまったねこ。


あまりに可愛くて近所に自慢していたら盗まれてしまった2匹の、目の青いねこや、珍しい柄の三毛ねこ。


喪失はいつも遅れた頃に、とめどない涙と嗚咽にして迎えなければならなかった。

止まらない、「ごめんなさい」という償いの言葉だけが部屋に遅れて響いてくる。


ごめんなさい、病気にしてごめんなさい。

お外に出して、ケンカをさせてごめんなさい。

みんなに見せびらかして、どこかへ連れ去られてしまって、ごめんなさい。


探しても探しても、あの子達の影はない。

携帯端末が勝手に写真アプリの機能で、ねこたちのアルバムを流し出す。


もう、ねこなんていらない。

うちにきた新しいねこに餌もやらない。

どうでもいい。

水なんて知らない。

新しくきたねこをすこしもかわいいと思わない。


あたらしいのを可愛いと思うくらいなら、昔飼ってきたねこを思い出して、一時間でも、1日でも、泣いて暮らした方がいい。


もっと会いたかった。一秒。たった一秒でも。

苦しい生なら無理強いはしないから、ほんの一瞬でも。そのねこにとって、幸せな時間があれば、それでいい。

それを知る術もないのに、お別れだけがくる。


また、泣く。

どこにいったの。

辛い思いはしてないよね。

ここで過ごしたことは、あなたにとって、あなたたちにとって、しあわせでしたか?


もう、ねこなんて、少しも可愛いと思わない。流れてきた涙はすこし冷たくてしょっぱい。


もう一回ってなに。

もういいよ。

もう好きにしなよ。

わたしは、いままで飼ってきたねこを大切にしたいんだよ。

大切にできなかったから。

悲しいから。

せめて、泣けば泣くだけ、あの子達が幸せにならないか願ってる。

もう擦り寄ってくることも、甘噛みも、じゃれることも、一緒にお昼寝することも、飼い主の上で寝ることも、おやつで飛んでくることも。


ただ、ただ。

窓の外を眺めていてくれる姿も見れないで。

おもいだしたら、もう一回。

もうすこし。まだちょっと、もっともっと。


もっとのこの寂しい思いがつづくべきだから。



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猫をいつか 明鏡止水 @miuraharuma30

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