第2話 鉄壁のガーディアン
「改めまして朔來 創(さくら そう)様。今回はIT災害の人民救出の協力要請に応じていただき、心から感謝いたします」
スーツ姿の彼女のいう通り、僕はつい先日特殊警察と呼ばれる組織からの協力要請を受けた。
内容はAIの暴走により人命が危険に晒されているので協力して欲しいというもの。人名が危険に晒されているという表記の時点で覚悟を決めておかなければならなかった。
一般企業に勤め、平凡な給料を貰っていた多額の報酬に惹かれた俺は、それを気軽に受けてしまったのだ。
「私は江神(こうがみ)と申します。事件の原因究明のために参加しています。どうぞよろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします」
簡単に挨拶を交わしてから、江神と名乗った女性は早速ホワイトボードを指差す。
「それでは、レジデンス東波のIT災害についてお話ししていきましょう」
俺は立派なマンションの写真を見ながら事前に調べた情報を頭に思い浮かべていた。
十数年前のことだ。このなんの変哲もないマンションは突然鉄壁となった。
当時のレジデンス東波では、狙ったように悪質な詐欺セールスが絶えず集中していた。それに痺れを切らした住人たちが管理会社とオーナーに掛け合い、多額の融資を募ってセキュリティAIを導入する。それが今絶賛暴れ倒している通称:SENDANKUというAIだ。そのAIはたった数日で被害を一掃した。そこまでは良かったのだ。
「マンションの各階にガーディアンと呼ばれるAI搭載のロボットが配置されており、部外者の侵入を拒みます。例えばオートロックに設置されているカメレオン型のガーディアンは来訪者が住人か否かの顔認証を行い、長時間居座るか、異なる部屋番号を複数回呼び出した場合には直ちに警戒体制に入ります。警戒体制とは自動音声での警告や通報準備です。あくまで導入当時の動きになりますが」
「今は警戒体制どころか即攻撃でしたね」
余計な部外者は一切寄せ付けない安全なマンションは住人たちを快適な日々に導いていた。しかしそれがつい先月、急に狂い始める。
「ええ……最初の被害が発覚してから連続して人民への被害が続いている状況で、今では住民以外の来訪者を無差別に攻撃します」
資料によればひと月前、マンションの住人の一人がオートロック付近に血痕を見つけ、初めて事件が発覚した。防犯カメラの映像から、カメレオン型のガーディアンが来訪したセールス業者にビームを放っていたことが明るみになったのだ。
怪我を負ったはずのセールス業者から報告や通報が未だにないのは、まあお察しの通り業者側にも悪質である自覚があったというところがうかがえる。この時代ではその手の後ろめたい事業を行う会社は多い。
「そして、一週間前。マンションの住人から命を落としかけました」
江神さんのその一言によってさらにその場の空気は凍りついた。
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